小雪-中国の新幹線 (2017年11月22日 晴れ 最高気温 8℃、最低気温 -3℃)
日本に一時帰国して、友人や田舎の親戚に会うときまって、「北京は空気が汚くて、大変ですね」と、まるで地獄から戻ってきた亡者を見るような眼つきで聞かれます。しかし、北京は毎日空気汚染がひどいわけではありません。澄み切った青空が出現する頻度は、年ごとに多くなっています。
そんな相手の同情を否定するようなことを言うと、日本の報道機関に洗脳された皆さんは全く信用ぜず、青空の写真をお見せしても、「こんな日は年に1度しかないのだろう」、「どうせ写真を合成したんでしょ」などと、逆に怒ったように反論されます。
ここまで読んでいただいた皆さんは、どちらのご意見でしょうか?
【北京ではなく、上海の空です】
報道機関と言えども商売ですから、基本にあるのは『買ってもらう』ことです。そのため、読者の喜ぶことを積極的に流し、喜ばないものには見向きもしません。しかし、これは読者に対する媚びであり、報道機関が本来持っている真実を伝えるという使命に反していると思います。一方、読者も自分の国は一番素晴らしと思う、或いは思いたい気持ちは誰にでもありますので、他の国に追い越されたといった話は聞きなくないのは当然なことではあります。
こうして、北京の大気汚染を含めた中国の悪い情報が、毎日、お茶の間に届くわけですが、実際の中国は、皆さんが思っているよりも、どんどん先を行っているところがあるのです。
【最新車両『CR400AF』】
前置きが長くなりましたが、今回は『中国の新幹線』と題して、読者の皆さんにとっては愉快でない話を紹介します。辛抱強くお付き合いいただければと思います。
中国では、新幹線のことを『高速鉄路』、略して「高鉄」といいます。当初、日本の新幹線の製造や運行など様々な技術を学んだにも関わらず、中国は国産何十%を達成したと胸を張り、「新幹線」という名前も敢えて使いません。こんな中国の態度が、我々日本人にとっては片腹痛いところではあります。
【中国で今最も多い使われている車両CRH380】
この「高鉄」ですが、2008年8月、北京‐天津間の運行を最初に始めました。それから、2016年末までで、全国の営業距離数は22,000㎞に達しています。
日本では1964年10月、東京オリンピックに合わせて東海道新幹線が開業して以来、半世紀以上をかけて、営業距離数は3,289㎞となっています。中国では、たったの9年間で、日本の6.6倍以上の専用レールを敷き、高速車両を走らせているのです。日本と中国では国土の広さが違うと一言では片付けられないほど急速に拡大しています。それは、車両製造に止まらず、素材、部品の生産、運行システムなど広範で多様な技術の蓄積と向上が図られている証拠であり、中国の勢いというものが、この点にも表れています。
【中国の高速鉄道網の地図。主要都市はほとんどカバーされています。赤線が高速鉄道、緑の点線は在来線の利用や建設中のもの】
その他の理由として、中国では、土地は国家のものであり、所有権を認めず、使用権のみが認められているために、土地の収用が簡単なことが挙げられます。極端な話ですが、中国では、地図の上に線を引くだけで収用できるため、「高鉄」、「高速道路」ともに、直線が多いとも言われています。
運行技術について言えば、中国で最初に運行を始めた北京南駅発の天津行きは、今では、朝の7時台で1時間に13本の列車が発車しています。平均すれば、約4分半毎に1本の発車となり、東京の地下鉄とほとんど同じ間隔、通勤電車の感覚で運行されています。
【電光ボードに時速352kmが表示されました】
先日、今年9月21日から時速350kmの運行を始めた最新車両『CR400AF』に乗る機会がありました。流線型の先頭部分から白いボディに赤いラインが通った車両は、新幹線と同じ16両に長々と連結されています。
この最新車両は、北京-上海間に導入されており、1,318kmを4時間30分で走り抜けます。上の表のとおり、東京-博多間1,175kmの5時間に比べて、その速さをご理解いただけると思います。値段的には、飛行機のディスカウントチケットのほうが安い場合がありますが、ボーディングチェックなどの搭乗手続きの煩雑さと離陸時間の不規則さから、現在、中国では、飛行機よりも「高鉄」を選ぶ人が多くなっています。
【人で溢れている上海虹橋駅。中国では発車時間直前までプラットフォームに降りれないため、多くの人が改札口の前で待っています】
といっても、飛行機は飛行機でほとんど満席です。「高鉄」も時期を逸すると切符の購入が難しくなるほど混んでいます。人の動きが活発であることは、経済が活発であることを表しています。旺盛な需要は、経済の好循環を生み、その象徴が「高鉄」とも言えます。今、中国全土で、ブルトーザーで土地を造成するように、「高鉄」の建設がたゆまず進められているのです。
【高速鉄道の2等座席。ほとんどいつも満席です】
思い返してみますと、20世紀は『日本の時代』と言っていいと思います。明治維新から戦争に突き進み、敗戦の焦土から復興を遂げた日本は、20世紀のなかで、主役といってもよいほど重要なプレーヤーでありました。しかし、21世紀は、その座を中国に譲ることになるかもしれません。我々はそれに眼をそむけるのではなく、冷静に直視する必要があるのではないでしょうか。
文・写真=北京事務所 谷崎 秀樹
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★本コラムについてはこちらから→【新コラム・北京の二十四節気】-空竹-
★過去掲載分:
立冬-揚州行-2017/11/7
霜降-人狼ゲーム-2017/10/23
寒露-東岳廟-2017/10/8
秋分-あるシェアハウス-2017/9/23
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処暑-八大胡同-2017/8/23
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2016年掲載分