【北京の二十四節気】小暑-京深海鮮市場-

小暑-京深海鮮市場(2017年7月7日 曇り 最高気温 32℃、最低気温 23℃)

小暑(しょうしょ)になりました。これから本格的に暑くなります。77日、七夕の祝いは、日本では太陽暦に基づき今日を七夕とする地域もあれば、太陰暦に基づく地域もあります。中国では、このような節季の場合、ほとんど太陰暦を使っていますので、今日が七夕とは誰も思っていません。

 

【京深海鮮市場の入り口】

さて、東京都議選(72日)が終了し、築地の移転問題は方向性が決まりつつありますので、今回は自分で言うのもなんですが便乗商法にて、北京最大の魚介類を扱う市場「京深海鮮市場」を紹介します。

「京深海鮮市場」の面積は10万㎡です。10万㎡と聞いても、どのくらいの大きさかピンと来ない方が多いと思います。簡単に言いますと、便乗もとの築地市場の面積が23万㎡ですから、ちょうど半分弱、場内か場外のどちらか一つということになります。

「北京最大の市場が築地の半分しかないのか」とツッコまれそうですが、北京には魚介類を扱う市場だけで10ヶ所あるのです。北京は広く、人口は2,000万人以上と多いために、12ヶ所の集中供給というより、分散型の供給体制となっています。北京が現在発展しているとはいえ、10年程前までは流通システムや道路網などが十分に発達していなかったため、需要先である住民との距離を短くする必要もあり、このような形になったと思います。

 

【小売りやレストランが入る中央の建物】

 「京深海鮮市場」は北京市内、例えば、天安門から車で南下し、30分以内に到着します。誰でも自由に入場することができます。入り口のゲートをくぐり、中に入ると、工場のような23階建の背の低いものと高い建物が、横三列に奥まで細長く並んでいます。建物と建物との間は、車道と駐車場になっていて、車は雑然と置かれています。

 

真ん中の建物の1階には、大きな日傘が並び、中には水槽が沢山置かれ、生きた魚介類が売られています。ここで、1歳くらいの赤ん坊を抱いた女性と会い、写真を撮らせて貰いました。彼女は、地方から出てきて、この市場の小さな店で働きはじめ、結婚し、出産したとのことです。北京では、地方出身者の流入を制限するため、北京戸籍者と地方戸籍者を峻厳に分けています。北京で生まれたとしても、地方戸籍の父母から生まれた子供は同じ地方戸籍となり、教育や社会補償などの面は、地方政府の規定に基づくことになります。北京に住んでいながら、北京市政府ではなく、肝心のところが地方政府の規定となるため、実際の待遇では大きなハンディを背負うことになります。カメラ目線を決めてくれたこの赤ちゃんも生まれながらにして、将来的に格差を受けることになるのです。

 

【活魚用の大型トラック。遼寧省のナンバーでした】

別の列の建物は、卸専門の企業が八畳ほどのブース毎に入居しています。もう一つの建物は、活魚や卸が一緒に入っています。建物の周りには、活魚運搬用のトラックや大型バイクなどが停車しています。ナンバープレートを見ると、魚介類の産地である遼寧省、江蘇省、広東省などが多くありました。また、バイク野郎がたむろしていて、卸売り業者からの輸送の依頼を待っています。

 

 

【依頼を待つバイク野郎たち】

初めての往訪でしたので、おのぼりさんよろしく、きょろきょろしながら、歩いていますと、いつの間にか、40代ほどの女性が後ろから付いてくるのです。こちらが頼んだわけではないのに、どこに行くにも付いてくるのです。

この女性は、日本ならば繁華街にいるキャッチと言えば分かりやすいでしょうか、真ん中の建物の3階に入居するレストランの人間なのです。キャッチと聞くと、うさん臭く感じられると思いますが、本当にうさん臭いのです。ちなみにキャッチ姉さんに写真を撮らせてと頼みましたが、残念ながら拒否されました。

 

【平日の昼前、暇そうに携帯を見る売り子のお姉さん。本文とは直接の関係はありません】

北京では(中国どこでも基本的に同じですが)、このような海鮮市場や農産物市場では、単価を決めてから、その場で売る側が天秤棒のような秤で重さを計り、何gだからいくらと売買します。しかし、素人では天秤棒の目盛りがよく理解できないため秤を細工したり、或いは、買った魚介類をビニール袋に入れて秤で量るときに、店員が水や氷を余計に入れて、重さをごまかしたりといった話が数多くあります。

 

 

【大型のカニやエビを売る店。本文とは直接の関係はありません】

特に、この京深海鮮市場の評判は悪く、数名の知人に聞いても、皆、苦虫を嚙みつぶしたような顔をして、異口同音に「騙されたことがある」と言います。

真ん中の建物の1階には生きた魚介類、2階が乾物、3階がレストランになっています。3階のレストランは数店が入居していますが、全ての店は調理だけのサービスを提供しています。材料は、1階の活魚店で客自ら購入し、3階まで持ってきて、調理してもらうのです。活魚店と調理店が連携したり、或いは経営者が同じ場合などでは、1階の自分の店で魚介類を買ってもらい、3階で調理も依頼されれば、収入は二倍になります。そのため、キャッチに口銭を払っても、十分採算が取れるのです。更に悪徳なところでは、先ほど紹介しました重さをごまかすばかりでなく、依頼された新鮮な魚介類を裏でコッソリ鮮度の落ちたものと換える。或いは、例えば、1階で買った500gの魚介類は、3階では300gしか調理せず、残った200gは1階に戻すといったことが行われているのです。

 

3階のレストラン】

なぜ、こんなことが許されるのか?

日本であれば、不正を正すことが好きなメディアが騒ぐこと必須のアイテムと思いますが、中国では、WeChat(微信)などのSNSで、「騙された」と盛んに苦情を発信しても、当局は微動だにしません。日本と中国の体制の違い、北京市民と地方出身者の感情の違いなど、その原因は多々あると思いますが、根本的には、他人を信用しないという中国人の性格、自分が良ければそれでよいという中国人の独善的な考え方にあると思います。

売るほうは「北京の人口は2,000万人以上、毎日騙しても、毎日新しい人が来る」とうそぶきます。ときおり、客が携帯用秤を持参して、重さをごまかしていることを現場で指摘しても、売るほうは、あやまるどころか、「いやなら、ほかに行ってくれ」と開き直ります。買うほうも半分あきらめ気味で「商売人は、人を騙すのが商売」と考えています。「商売は信用が第一」と教えられてきた日本人にはカルチャーショックですが、まさしくこれが中国四千年の文化なのかもしれません。

 

1階の鮮魚売り場。昼前の気だるい雰囲気があります。本文とは直接の関係はありません】

最後に、中国における偉大な思想家であり、儒教の始祖である孔子(紀元前551年~紀元前479年)の言葉を記して結びとします。

「民を指導するのに政治的手段により、きちんとさせるのに刑罰によれば、彼らは刑罰を免れることばかり考えて、恥の意識を無くしてしまうであろう。これに対して、指導するのに道徳により、きちんとさせるのに礼によれば、彼らは恥の心を持ち、正しくなるであろう。」(湯浅邦弘氏著『諸子百家』85頁)

京深海鮮卸売市場:北京市豊台区大紅門石榴庄西街232

文・写真=北京事務所 谷崎 秀樹