1.はじめに
中東情勢の緊迫化は、エネルギー価格や原材料価格の上昇を通じて、日本企業の経営に幅広い影響を及ぼしている。福井県内企業も例外ではなく、原材料の調達難や価格高騰、生産計画の見直しなど多くの課題に直面している。
一方で、国際情勢が不安定になる中、中国との取引は県内企業にどのような影響を及ぼしているのだろうか。一般には中国ビジネスはリスクとして語られることが多いが、実際の企業活動では異なる側面が浮かび上がってくる。
本レポートでは、福井県や福井商工会議所、福井銀行の調査結果を整理するとともに、福井商工会議所主催の海外業務担当者ネットワーク交流会で得られた企業担当者の声を基に、中東情勢の中で中国ビジネスが果たしている役割について考察する。
2.福井県の調査結果から見る中東情勢の影響
福井県は 2026 年 5 月に独自調査を基に「中東情勢による影響について」を公表し、県内企業の具体的な状況を明らかにした。主な業種への影響は次のとおりである。
(プラスチック産業)
国内外からの樹脂原料の入荷が不安定化し、ポリプロピレンやポリスチレンの価格が 2 倍近く上昇している。この状況により、6 月以降の生産計画が立てられない企業がある。
(繊維産業)
糸の仕入れ価格やベンゼン等を原料とする加工剤の値上がり、梱包材の供給制限も影響している。特にアセトンやベンジンなどの溶剤の入手困難と値上がり(最大 80%)の影響が大きい。6 月以降は備品の値上げや納入遅延が予告されており、生産停止や従業員休業の可能性もある。
(製造業全般)
有機溶剤や樹脂製品などの原料が入手困難となり、メタノール等は必要量の 30~40%しか確保できない状況にある。価格転嫁が難しく、生産調整や受注減の懸念が強い。6 月以降の生産計画が立てられない企業があり、原料が途切れた場合、生産停止等の可能性もある。
3. 福井商工会議所および福井銀行の調査結果
福井商工会議所が実施した「中東情勢の悪化が企業に与える影響調査」(2026 年 4 月)では、86%の企業が中東情勢の悪化により何らかのマイナス影響を受けている。具体的なマイナス影響として、「原材料、資材等の調達コスト上昇」が 74.0%で最も多く、「エネルギーコスト上昇」が 61.0%、「原材料、燃料、資材などの調達難」が 59.7%となっている。
また、この調査では企業が講じている対応策についても次のような結果が示された。
・販売価格の見直し: 50.0%の企業が実施。特に製造業では 60.5%と高く、仕入価格の上昇を販売価格に反映させる動きが顕著。
・経費削減: 39.6%の企業が実施。
・在庫の積み増し: 37.0%の企業が実施。
・原材料の調達先の多様化: 36.4%の企業が実施。
・収益状況: エネルギーや原材料価格高騰の影響を受けて収益が厳しい状況が続いている。
福井銀行の「福井県内企業景気動向調査」(2026 年 3 月)では、県内製造業から次のような回答が寄せられている。
「エネルギーや原材料価格高騰の影響を受けて収益が厳しい状況が続いている中、製品への価格転嫁を進めている。しかし、中国の経済活動回復遅れなどで、販売業況は足踏み状態となっている。」
各調査が示す状況は一貫している。コスト上昇は業種を超えて広がっており、8 割以上の企業が何らかの影響を受けている。しかし、それ以上に深刻なのは、上昇分を販売価格に転嫁しきれていないことだ。半数の企業が値上げに動いているものの、福井銀行調査の回答企業が指摘するように、中国の需要回復の遅れも重なり、収益改善には至っていない。このように、コスト高と価格転嫁難という二重苦が、現在の県内企業の経営を圧迫している。
4.企業担当者からのヒアリング
では、実際の企業活動の現場では、中東情勢が中国関連ビジネスに影響を与えているのか。その実態を把握するため、7月8日に開催された福井商工会議所主催の「海外業務担当者ネットワーク交流会」に筆者も参加した。この交流会は、県内企業の海外展開における課題解決や情報交換、企業間の人脈作りを目的として年数回開催されている。今回のテーマは、「中東情勢において直面する課題や現状」である。各参加者からは、中東情勢に起因する原材料の調達難や価格高騰について報告されたが、本稿では特に中国ビジネスに関する発言を中心に整理した。なお参加者はいずれも福井の地元中堅・大手企業である。
(A社:化学品製造業)
原材料の価格高騰で販売価格については段階的に値上げせざるを得ない。また、原材料は代替品によるコストダウンを検討している。特に中国の現地工場では原材料の現地化を進めており、中国国内で調達を完結できる体制の構築が進んでいる。現地の品質が向上してきたことも、現地化を後押ししている。
(B社:商社)
特に繊維製品や化学製品の輸出入を手がけており、どちらかといえば輸入が主である。紙製品に使用する接着剤が入ってこない。また結束するための PP バンドも(通常の国内ルートで)入手が困難になりつつあり、急遽海外から取り寄せることにした。中国との取引については、楽観視できるものではないが、中国自体は中東情勢の影響を比較的受けていないように感じる。
(C社:繊維製造業)
当社は使用する糸の約8割が海外製で、その大部分は中国または台湾製である。ポリエステルなど 100%石油由来原料のものは当然価格高騰している。各国とも原糸価格は軒並み値上げ傾向だが当社としての価格転嫁は思うように進まない。自社の製品については最終的にアパレルメーカーによって衣料品(高機能アウトドア衣料など)となり中国市場へも販売されるが、中国からの受注量は減少してはいない。
今回の交流会での発表をまとめると以下の3点に整理できる。
第一に、福井県内企業は原料価格の上昇や副資材の調達難といった課題に直面しているが、その影響の受け方は企業ごとに異なる。そのため、在庫管理や価格の見直しなど、企業ごとの状況に応じた対応が求められる。
第二に、依然として大きな課題となっているのが、コスト上昇分を販売価格に十分転嫁できていない状況が続いている。この問題は、中東情勢が落ち着いても自然には解決せず、取引先との価格交渉や取引慣行の見直しなど、構造的な改善が求められよう。
最後に、中国市場や中国のサプライチェーンは、中東情勢という短期的なショックに対し、県内企業の事業継続を支える役割を果たしていることがうかがえた。実際に、中国から安定して原料や部品を調達できている企業もあり、国際情勢が不安定な中でも、中国との取引が企業活動を支える側面が確認された。
公的調査は県内企業全体の傾向を示しているのに対し、今回のヒアリングでは、企業ごとの対応の違いや、中国との取引が企業活動を支える実態がより具体的に明らかになった。
5.まとめ
中東情勢の影響により、県内企業はコスト高と価格転嫁難という二重苦に直面している。一方で中国ビジネスは、中東情勢という短期的なショックに対し、安定した原材料の調達先や販売市場として機能している一面も確認できた。もっとも、今回の結果は中東情勢への対応という短期的な視点から見たものである。今後も安定した事業運営を続けるためには、中国との取引を活用しつつ、さまざまなリスクに備えた体制づくりが求められる。
春日野 道治(2026年7月)
