(インド地域レポート/繁田)【インドのGCC活用― 外資系先例と最近の日本企業の動き】

 企業のインド活用は、従来の「製造拠点」や「販売市場」という枠を超え、より高度な機能へと広がっている。その中核にあるのがGCC(Global Capability Center)である。
 GCCとは、グローバル企業が自社機能(IT、開発、分析、バックオフィス等)を集約する拠点であり、単なるアウトソーシングとは異なり、企業の中核機能を担う組織として位置づけられる。インドはこのGCCの集積地として、他国には見られない独自のポジションを確立している。

1.GCCという活用形態:なぜインドで成立したのか

 NASSCOM/Zinnovレポートによると、インドにGCCを保有する企業数は2025年度推計で2,117と世界最大級を誇る。売上規模は984億ドル、雇用者数は236万人にのぼる[1]。最近のインドのGCCの特徴として、「コスト削減拠点」にとどまらず、「高度人材を活用した中核機能拠点」として進化している点にある。新規にインドに設立されるGCCの7割以上が生成AIラボを統合し、グローバルな製品イノベーションを推進している、という報告もある[2]
 背景にあるのは、人材の厚みである。インドはSTEM分野の卒業生を輩出する国として世界第2位であり、年間約255万人を輩出している[3]。また、主要な大学や、STEM・ビジネスなどの専門分野においては、基本的に英語で実施される。IT・エンジニアリング分野において、英語で業務遂行が可能な人材が大量に供給される環境は、他の新興国には見られにくい。単なる労働力ではなく、設計、開発、分析といった上流工程まで担える人材が揃っている。
 また、ビジネス文化の面でも、契約ベースでの業務遂行や成果志向のマネジメントなど、欧米企業と親和性の高い運営が可能である点が大きい。これにより、単なる委託ではなく「組織として内製化する」形での拠点運営が成立している。
 結果としてGCCは、コスト最適化の手段ではなく、グローバル企業の競争力そのものを支える基盤へと変容している。

2.外資系企業の先行事例:IT企業から全産業へ

 GCCの活用は、まず米国のIT企業によって加速した。ソフトウェア開発やサポート機能をインドに移管する動きは1990年代から始まり、その後はデータ分析、AI開発、クラウド運用など、より高度な領域へと広がっていった。そのため、GCCを構成する出自国は今でも米国が圧倒的に多く、約6割を占めている[4]。最近のインドGCCは単なる開発拠点にとどまらず、プロダクトの中核機能を担うケースも多い。AI主導のGCCも増加しており、前出のNASSCOM-Zinnovレポートでも、AI・機械学習を備えたGCCはインド国内に約1,200存在、そのうち、AI・機械学習の専門CoEは約250にのぼる、と言及している。
 この流れはIT企業にとどまらない。Walmartのテック部門や、Goldman Sachsのエンジニアリング機能では、インド拠点がプロダクト開発やデータ分析の重要な役割を担っている。このように、金融機関、製造業、ヘルスケア企業などもGCCを設置し、リスク管理、研究開発、サプライチェーン分析などの機能を移管している。
 また、グローバル企業のマネジメントにインド出身者が数多く登用されていることも、この流れを支えていると言える。GoogleやMicrosoftをインド出身のCEOが率いていることはよく知られるが、この傾向はIT業界にとどまらない。海運大手マースクでは技術・情報部門を統括する執行役員(CTIO)を[5]、製薬大手ノバルティスでは同社最大のグローバル・コーポレートセンターのトップを[6]、いずれもインド出身者が担っている。
 インドが供給するのは技術者だけでなく、経営を担う人材でもある。本社の意思決定層と現地拠点の双方でインド人材が存在することで、言語や文化的な距離が縮まり、組織運営ノウハウも共有されやすく、結果としてインド国内に高度な機能や権限移譲を行いやすい環境が生まれている。

3.中国との違い:なぜ同様の活用が広がらなかったのか

 GCCという形態は、中国では同じようには広がっていない。背景にはいくつかの構造的な違いがある。第一に言語の問題であり、グローバル業務を英語で一貫して運営する点で制約があった。第二に、外資規制に加え、海外データ移転規制[7]など、グローバル機能、特にデータの一元化(統合・分析)を必要とするGCCに適さない制度環境が存在した。第三に、企業の中国拠点は長らく「製造・販売」に軸足が置かれており、機能集約型の活用が進みにくかった。
 その結果、中国はインドのような「グローバル標準の機能集積地」とは異なる道を歩むこととなった。ここで重要なのは、両国の「役割の違い」である。インドが英語力とデータ統合力を武器に「全社機能の効率化を支えるインフラ」として進化を遂げたのに対し、中国は独自の法制度やエコシステムの中で「超高度にデジタル化された巨大な実需市場」としての発展を極めている。中国で最先端のデジタル事業を展開しつつ、インドのGCCでグローバル運用を効率化するという、両国を戦略的に補完し合う関係として活用する視点こそが、これからの経営に求められている。

4.日本企業の動き:活用の現状と変化の兆し

 日本企業におけるインド拠点の活用は、これまでIT開発やBPOといった限定的な機能にとどまるケースが多かった。特にシステム開発の下流工程や業務処理の一部を切り出す形での利用が主流であり、グローバル機能の中核として位置づける動きは限定的であった。
 この背景には、本社主導での意思決定や機能分散に対する慎重な姿勢がある。結果として、外資系企業がデータ分析やプロダクト開発、研究開発といった上流工程まで移管してきたのに対し、日本企業は「補助的機能」としての活用にとどまる傾向が強かった。
 一方で、こうした状況にも変化が見られ始めている。例えば、日立グループの日立エナジーはチェンナイに最大規模の技術革新センターを開設し[8]、次世代グリッド等の研究開発を通じて年間1,000超のグローバルプロジェクトの支援を行っている。さらに、追加のGCC設立や大型投資を通じてインドを世界全体のエネルギーシステムを支える中核拠点と位置付け、機能強化を進めている[9]。また、ダイキン工業はインドにおいて研究開発機能を強化し、現地市場向け製品の開発だけでなく、グローバル展開も見据えた技術開発拠点ならびに技術基盤強化としての役割を持たせている[10]
 同様に、一部の製造業やIT関連企業においても、インドのデータ分析や設計開発機能を強化する動きが出てきている。富士通は昨年9月の日印サミットにおいて、インドGCCの大幅拡張と9,000人のエンジニア採用を発表している[11]。このように、従来のオフショア活用からの転換が徐々に進みつつある。

5.日本企業への示唆:GCC活用で問われるもの

 インドにおけるGCC活用を考える上で、日本企業にとっての論点は明確である。
 第一に、「コスト削減の延長」として捉えるかどうかである。外資系企業はGCCを単なるコスト最適化手段としてではなく、開発力や意思決定のスピードを高めるための手段として活用している。一方で日本企業では、依然としてコスト削減の文脈で語られることが多く、この認識の違いが活用範囲の差につながっている。
 第二に、どこまで権限と機能を持たせるかである。データ分析や開発といった領域では、現場に近い場所で意思決定が行われることが重要になる。インド拠点に対して限定的な役割しか与えない場合、GCCとしての価値は発揮されにくい。
 第三に、他拠点との関係の持たせ方である。インド拠点を単独で機能させるのではなく、日本本社や海外拠点との役割分担の中で位置づけることが必要となる。
 こういった視点を踏まえつつ、インドをグローバル戦略拠点と位置づけ、発展させていく日本企業が増えていくことに期待したい。

繁田 奈歩(2026年7月)


[1] https://thepamphlet.in/indias-gcc-boom-nears-100-billion-as-the-sector-moves-from-scale-to-strategic-value/

[2] https://kasbusinessconsulting.com/global-capability-centers-india-2026-new-gcc-launches/

[3] https://educationforallinindia.com/wp-content/uploads/2026/03/The-STEM-Pipeline-in-India-From-Science-Classrooms-to-STEM-Degrees-UDISEPlus-2024-25-AISHE-2021-22.pdf

[4] https://www.altre.co.in/blogs/global-capability-centers-in-india-country-trends-location-strategy

[5] https://www.logisticsinsider.in/maersk-appoints-navneet-kapoor-ctio-to-its-executive-board/

[6] https://timesofindia.indiatimes.com/technology/times-techies/how-a-swiss-drugmaker-built-its-largest-gcc-in-hyderabad/articleshow/127898566.cms

[7] https://www.thewirechina.com/2023/10/22/beijing-hits-pause-on-data-decoupling/

[8] https://www.hitachienergy.com/jp/ja/news-and-events/press-releases/2023/10/hitachi-energy-inaugurates-its-largest-global-technology-and-innovation-center-in-chennai

[9] https://www.hitachienergy.com/news-and-events/press-releases/2023/10/hitachi-energy-inaugurates-its-largest-global-technology-and-innovation-center-in-chennai

[10] https://gcc.economictimes.indiatimes.com/news/industry-trends/daikin-sets-up-gcc-in-india-in-association-with-ey/122851202

[11] https://gccrise.com/fujitsu-to-hire-9000-engineers-in-india-strengthening-global-capability-centre-gcc-expansion/