大雪-アリババのスーパー (2017年12月7日 曇りのち晴れ 最高気温 6℃、最低気温 -5℃)
今回は、表題のとおりアリババ集団が立ち上げたスーパーマーケット「盒馬鮮生(he ma xian sheng)」を紹介します。しかし、こちらはアリババの社員でもなく、ましてや広告宣伝料を貰っているわけでもありませんので、会社の紹介は最小限に止めたいと思います。
この店は「十里堡(shi li pu)」という北京の第四環状線の東方、高層マンションが建ち並び、大型のショッピングモールもあり、首都近郊の住宅エリアといったところにあります。
【スーパーの全景】
このスーパーがあるビルは、以前イトーヨーカ堂が1998年に北京進出の第1号店としてオープンしたというところです。競争が激化するなかで、イトーヨーカ堂は撤退に追い込まれ、代わって、アリババが入るという新旧交代がはっきり分かる形を、故意かどうか分かりませんが、彼らは演出しています。ちなみに、イトーヨーカ堂は現在、北京では別の場所で1店舗のみの営業となりましたが、成都では7店舗と頑張っておられます。
【レーンが縦横に張り巡らされています】
目指すスーパーはこのビルの地下1階にあります。入って直ぐが海鮮売り場ですが、魚の嫌な臭いは全くありません。開業して約半年とのことですが、店内はとても清潔です。店の面積は約1万㎡、日本の大型スーパーと同じような面積です。顔を上げると、レーンが天井に付くように張り巡らされています。ネットで注文があると、店員が備え付けの袋に商品を入れて、レーンに掛けます。商品は天井のレーンを通って、配送専門の場所で梱包され、電動自転車に乗った配達員によって客の家まで届けられます。この店では、半径3㎞以内であれば、注文してから30分以内に配達するのを売りの一つにしてしています。
【海鮮売り場で貝類を買う主婦】
しかし、天井のレーンは、本当に必要かと疑ってしまいます。店はそれほど広くはなく、従業員も多くいるのです。日本のスーパーのように、店員がカゴを下げて商品を集めても、スピードと労力はそれほど変わらないと思います。このレーン、視覚的にはインパクトがありますが、よくよく見ると、原始的と言いましょうか、子供だましのものだと笑ってしまいます。
【和牛の販売コーナーで品物を薦める店員】
売りの二つ目がキャッシュレス、いわゆる携帯電話の決済です。この携帯電話の支払いは、中国では日常化しています。ネットの買い物をはじめとして、レストランの食事代、友人間の割り勘などなど、なんでも携帯電話で送金が出来るのです。これは日本よりも先を行っている便利なところです。聞くところでは、乞食までも、携帯でお恵みを貰っているとのことですが、残念ながら、いまだ実見していません。
【日本の寿司コーナー。日本料理だけは専用コーナーが二つ置かれているほど、人気があります】
話しが横道に逸れましたが、このスーパーでは、キャッシュレスを前提に、会員限定(会員といっても携帯電話で簡単に、無料で入会できます)の販売を打ち出しています。しかし、開店当初、近所のお年寄りが物珍しさに押しかけ、買い物をしようにも、携帯電話を持っていない、あっても操作の仕方が分からないということで、店側と売る売らないで何度ももめごとが起き、怒ったお年寄りは地元政府に陳情するまでの騒ぎになりました。その結果、店側は現金での支払いを渋々認めたそうです。
【セルフ精算機で手伝いをする女の子。母親のジャージが中国的】
中国では、インターネットビジネスが急速に発展しています。アリババは1999年の設立ですが、たったの17年間で、時価総額が世界第6位(4,676.5億米ドル、2017年10月時点)になっています。その他にも、同業者である「京東(Jing Dong)」、インターネット検索会社である「百度(Bai Du)」などなど、沢山の中国民営企業が成長しています。
【スーパーの裏手には配送のための電動自転車が沢山置かれていました】
これらIT企業の成長は、中国が不便であったことが大きな要因です。以前の小売は「売ってやるぞ」という国有企業の旧態依然とした体質そのままで、品数は少なく、いや、少ないというよりは、まず、どこならば売っているかを探して、その上で目指す商店に行っても、欲しい商品は売っていないということが往々してありました。それが今では、町中を駈けずり回って探さなくても、携帯電話の画面を見るだけで、欲しいものが直ぐに手に入る時代になったのです。それも、中国全土から、更には海外の製品も買うことができ、尚且つ、その値段が普通の店よりも安いのです。
売る側としても、実店舗を持てば、敷金や毎月の賃貸料が発生しますが、ネットショップであれば、この部分が大幅に削減できます。これが値段を安くできる理由であり、金銭に厳しい中国人に歓迎されるという好循環を生んでいます。
【盒馬をはじめ沢山のショップサイト。これらは5~10年後も存在するのか、楽しみです】
そのため、今、中国では、若者を中心として、圧倒的多数の方々は、ネットショップを通じて買い物をします。携帯が無ければ何もできないといったところまで浸透しており、いろいろな会社のネットサイトで値段や中身を比較して、欲しいものを選んでいます。実店舗に行くのは、試着など品物を確認するだけが目的です。例えば、中国のユニクロは、実店舗を試着室と割りきり、その後で、ネットで買ってもらえればよいと、中国人の気持ちに合わせた戦略をとっています。
【若い店員二人。仕事中に恋の相談をしているのでしょうか?】
このような状況のなかで、アリババがスーパーで実店舗を持つというのは、逆に新鮮というか、驚きです。日本では、ネットショップが急速に発展したものの、一定の普及に達した後には、デパートなど実際の店舗を訪れて、買い物を楽しむという本来の姿に多くの客が回帰しました。アリババは、この日本の経験を学んでいるのかもしれません。そのため、このスーパーは、中国人が更にネットショップに邁進していくのか、或いは実店舗に回帰するのか、どちらの方向に行くのかを見定めるための試験管という大きな戦略を秘めているのかもしれません。
そう考えると、子供だましのレーンも最先端の技術かもしれないと思い直しました。
文・写真=北京事務所 谷崎 秀樹
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★本コラムについてはこちらから→【新コラム・北京の二十四節気】-空竹-
★過去掲載分:
立冬-揚州行-2017/11/7
霜降-人狼ゲーム-2017/10/23
寒露-東岳廟-2017/10/8
秋分-あるシェアハウス-2017/9/23
白露-北京の剣道-2017/9/7
処暑-八大胡同-2017/8/23
立秋-恭王府-2017/8/7