(関西地域レポート/十川)【『中国ビジネス環境発展報告(2026)』を読む】

 北京での5月の米中首脳会談の約1週間前、国家発展改革委員会から『中国ビジネス環境発展報告(2026)』が公表されていました[i]。折しも4月下旬に関西で、中国ビジネス環境の重点課題の解決を指向する仲裁法改正や企業登録抹消ガイドライン改訂などのオンライン解説講演会やセミナー[ii]の聴講機会が得られたこともあり、今回は、これら二つのセミナーのテーマをも念頭に、14・五期間の実績データがコラムでレビューされる等の特徴も有する『中国ビジネス環境発展報告(2026)』(以下本文中では「2026年版報告」)の概要をレポートします。

中国ビジネス環境発展報告とは

 中国では、長年にわたりビジネス環境改善政策が外資の要望にも鑑みて継続的に推進されてきたことは周知の通りです。特に2017年頃からは「市場化、法治化、国際化されたビジネス環境造成に努力すべき」ことが提起されてきました。2020年1月1日には「ビジネス環境最適化条例」施行による法制化が行われ、「国民経済社会発展第14次五カ年(14・五)規劃及び2035年長期目標」では「市場化、法治化、国際化されたビジネス環境を持続的に最適化する」と提起されました。
 そうした取組みの全国レベルの具体的な実績は、2020年からの『中国ビジネス環境報告』や中国国際貿易促進委員会による『中国ビジネス環境研究報告』等に反映されてきましたが、2025年4月には国家発展改革委員会から『中国ビジネス環境発展報告(2025)』として2024年の実績が公表されました。今般発表の2026年版報告においては、2025年の実績に加えて、14・五期間の成果がレビューされています。
 2026年3月の全人代で採択された15・五規劃では、これまでの進捗を受けて、「ビジネス環境の改善と向上を持続的に推進し、市場化、法治化、国際化された一流のビジネス環境を造成する」という表現で、ビジネス環境改善に終わりはないという認識と共に、一流を目指す覚悟が示されました。これは、2026年版報告においても、最後の「展望」部分に反映されています。

重要課題 「トラブル解決」と「企業の退出」

 2026年版報告では、冒頭のサマリーに続き、5つのテーマから2025年の実績と14・五期間の成果がレビューされています。その5テーマは、「1.市場参入」、「2.要素の保障」、「3.経営環境」、「4.トラブル解決」、「5.企業の退出」であり、中国のビジネス環境の重要課題を表現しているとも言え、前年の報告も同様の構成となっています。
 この中の「トラブル解決」と「企業の退出」を巡っては、前述(及び文末脚注2)の通り、前者は日中経済貿易センター主催の「中国仲裁法改正の要点と影響」についての専門講演会、後者は華鐘コンサルタントグループ主催の「企業登録抹消ガイドライン(2025年改訂版)解説及び実務」セミナーを、折しも4月下旬に関西で聴講する機会を得ました。いずれにおいても、日系企業を含む外資にとっての難題であるトラブル解決や、新たな前進にも資する再編や撤退といった退路への道筋が従前よりも明らかに具体化しつつあり、それらは国際慣習やビジネスルールにも鑑みたものであることを、主催者からのメッセージと講師の解説を通して理解することができました(2026年版報告での仲裁法改正と企業登録抹消ガイドライン改訂は、下表中の緑色マーキングが該当しています)。

表1―1 中国ビジネス環境発展報告(2026)概要:サマリーと5テーマ
表1-2 中国ビジネス環境発展報告(2026)概要:14・五データ・レビュー(抄訳)
表1-3 中国ビジネス環境発展報告(2026)概要:政策コラム(一例・抄訳)

地方のビジネス環境改善先行ケース:上海の例

 2026年版報告では、政策コラムに加えて、地方のビジネス環境改善の進捗や先行ケースが本文やコラムで多数説明されています。網羅的な検索は経ていませんが、31省・直轄市・自治区のなかでは、上海についての言及が比較的多いようです。

【2026年版報告における上海のビジネス環境改善についての説明例(順不同・抄訳)】
*(地方ケースコラム)上海自由貿易試験区臨港新片区:国際データ経済産業発展サービスパッケージ発表
 ➢標準化されたデータ越境届出プロセス構築、申請資料のリスト化、専門コンサルティングサービス等で企業の自己評価の難度を軽減、届出サイクルの短縮、企業の法規整合への投入コスト・リスク軽減
 ➢データ越境保存証明・検査方案の形成を模索し、企業の越境伝送業務データについて、点検・分析・保存をしないことを前提として、暗号技術を組み合わせた応用を通して、届出申請対象データ項目と実際の越境伝送データ、保存証明データ、事後検査データとの一致を保証
 ➢2025年末までに310余企業へデータ越境政策コンサルティングサービスを提供、数十社の届出完了を支援、データ越境の高効率で円滑かつ安全なフローを実現。
*北京、上海、浙江等:データ取引機構の積極的な調整・最適化・相互連携推進で「データ製品の一度の登録による全国相互承認」実現。
*北京、上海、広州、深圳等44都市:企業の電力接続問題対策のために「零投资(企業の初期投資ゼロ)」による電力接続制限を160kWから200kWに。
*北京、上海等:都市・農村電力網の供電信頼性向上、2025年の市街区内の平均停電時間<1時間/戸。
*北京、上海、広東:国家公共就業サービス地域センター設立により、地域の就業公共サービスの円滑な享受、連携等を推進。

 これらの実績は、昨年5月の関西地域レポートで触れた、国の「2025年外資安定化行動方案」にも先行するタイミングでの上海の「2025年ビジネス環境行動方案(いわゆる「ビジネス環境最適化行動方案8.0」)等が実効性を高めつつある証左との考察も可能なのかもしれません。
 一方、個別対応の努力を経つつも硬直化している、日中間の往来コスト増大を含む人的交流などの課題解決が切望されるところです。ビジネス現場からの生の声ができる限り反映されることを念じてやみません。


[i] 《中国营商环境发展报告(2026)》中华人民共和国国家发展和改革委员会网站、首页>新闻动态>通知公告、2026/05/08、来源:法规司、https://www.ndrc.gov.cn/xwdt/tzgg/202605/P020260508388323173734.pdf
[ii] ①日中経済貿易センター第103回専門講演会「中国仲裁法改正の要点と影響」。日時:2026年4月23日(木)14:30~16:00、講師:弁護士法人梅ヶ枝中央法律事務所弁護士・三好吉安氏、同法律事務所提携中国律師・張康亮氏。
 ②華鐘コンサルタントグループ月次オンライン実務セミナー(2026年4月度)「企業登録抹消ガイドライン(2025年版)について」。日時:2026年4月24日(金)15:00~17:00、講師:・蘇州分公司主任・李金姫氏。

十川 美香(2026年5月)