2026年度の東南アジア地域アドバイザーに就任致しました内藤と申します。2016年にシンガポール勤務を始め、当地から日系企業の東南アジア地域での事業展開をご支援をしております。また、上海・香港のメンバーとともに、在中国企業のご支援もしています。
読者の皆様は中国市場へのご関心が高い方が多いと存じます。では、東南アジア市場にはどの様な印象をお持ちでしょうか。一言で言い表せないとお思いではないでしょうか。もしくはタイなど特定の国の印象がとても強いかもしれません。
東南アジア市場は国ごとの成熟度、政治の安定性、人口規模・人口動態、経済規模などに大きな差があります。さらに言語、宗教、購買行動も異なるために、「東南アジア市場」という一つの市場があるわけではありません。それゆえ、私からの情報発信においては、特定の国または特定のテーマについて、取り上げていく予定でおります。どうぞよろしくお願いいたします。
今回は、東南アジア諸国内での日系企業からの注目度の一番高いベトナムを取り上げます(参考:JETRO「日本企業の海外事業展開に関する アンケート調査 2025年度)。私が東南アジア地域で提供する、アジア市場の業界分析・企業調査のプラットフォームSpeeda(スピーダ)のアナリストからのインプットも利用して、マクロ経済動向、不動産投資機会、物流・サプライチェーンの高度化、電力事情と課題への対応の4項目について触れています。
1. マクロ経済・政治環境の動向
力強い経済成長とインフレの安定 ベトナム政府は、2026年第1四半期のGDP成長率目標を約8%に設定し、通年でも10%以上の成長を目指すなど、極めて強気な経済見通しを立てている。すでに発表された2026年第1四半期の実績値は7.83%と非常に堅調であり、通年目標(10%以上)に向けて力強いスタートを切っている。インフレ率(消費者物価指数)は2024年実績で3.63%にとどまっており、食品や住宅・公共料金の上昇は見られるものの、総じて管理可能な水準で安定している。
政治体制と外資誘致(FDI) トー・ラム書記長の下で権力基盤の強化が進む一方、国家機関の合理化や汚職摘発キャンペーンが継続している。外資系企業にとってはコンプライアンスの徹底が求められる環境である。 海外直接投資(FDI)については、グローバルサプライチェーンの再構築(チャイナ・プラス・ワン)を背景に、2025年も順調に流入した。2025年の新規FDI登録額はシンガポール(27.9%)と中国(20.9%)が上位を占め、産業別では「製造・加工業」が全体の56.6%、「不動産業」が21.2%を牽引している。
2. 不動産市場の動向(オフィス・商業・工業団地)
オフィス・商業施設市場 ハノイとホーチミン(HCMC)が二大市場である。ハノイのオフィス市場は、新規供給が限定的であることからグレードAオフィスの希望賃料が上昇傾向にある。一方、HCMCは新規供給が続いているものの、強い需要に支えられ賃料は安定して推移している。 商業施設(リテール)市場では、Vincom RetailやAEONなどの大手デベロッパーが展開する、エンターテインメントや飲食を統合した「ワンストップ型」の大型ショッピングモールへの移行が進んでいる。外資系企業が不動産開発に参入する際は、用地取得などの法的なボトルネックを回避するため、地場企業とのジョイントベンチャー(JV)やM&Aをエントリー戦略とするケースが増加している。
都市開発のドライバー ハノイでは環状道路周辺のインフラ整備が郊外への都市拡大を後進している。HCMCでは、衛星都市への人口分散や、間もなく商業運転が開始される都市鉄道(メトロ)1号線などの交通インフラが今後の市場を牽引する成長ドライバーとなっている。
工業団地・物流施設市場 ハイテク産業や電子機器メーカーの誘致に向け、工業団地の開発が北部・南部ともに急拡大している。特に、進出時の初期投資を抑えたい外資系企業からの需要を背景に、RBF(Ready-Built Factory:貸工場)やRBW(貸倉庫)のセグメントが極めて好調であり、高い稼働率と安定した賃料上昇を記録している。
3. 物流・サプライチェーンの高度化
トラック輸送とインフラの課題 ベトナムの貨物輸送はトラックが主力(全体の約75%)であるが、業界は中小零細事業者が乱立しており極めて細分化されている。地方における道路インフラの未整備や、港湾・工業団地周辺の慢性的な渋滞により、物流コストは世界平均と比較して依然として高い水準にある。これに対し、統合的なサービスを提供する3PL(サードパーティ・ロジスティクス)事業者の優位性が高まっており、業界の統合が進みつつある。
コールドチェーン(低温物流)の急成長 Eコマースの普及や、中間層の拡大に伴う消費行動の近代化により、コールドチェーン市場が急拡大している。現状はインフラが未発達であるため、日系企業(ヨコレイ、双日、国分など)を含む外資系企業が大規模な低温倉庫の新設や投資を加速させており、高い成長ポテンシャルを秘めている。
地政学リスクとサプライチェーン可視化 南シナ海における領有権問題などの地政学リスクは、グローバル物流に直接的な影響を及ぼす。これに対応するため、衛星データ(AISなど)を活用してリアルタイムで船舶を追跡し、ルート最適化やリスク管理を行う高度なソリューションの需要が高まっている。
4. 電力・エネルギー課題と再生可能エネルギーへの移行
深刻な電力不足とインフラの脆弱性 急速な工業化に対し電力インフラの整備が追いついておらず、2023年に発生した大規模な計画停電では、GDPの約0.3%(約14億ドル)に相当する経済損失が生じたと推計されている。特に北部は天候(水不足)による水力発電の低下リスクを抱えており、送電網のボトルネックから中南部からの電力融通も制限されているため、依然として電力不足のリスクが高い。
第8次電力開発計画(PDP8)の改定と再エネの加速 2025年4月に改定された「第8次電力開発計画(PDP8)」では、経済成長(年率7.5〜10%想定)を支えるため、太陽光、風力、および蓄電池(BESS)の導入目標が大幅に引き上げられた。また、ベースロード電源として原子力発電の開発も再導入される方針が示された。
DPPA(直接電力購入契約)の解禁と事業機会 2024年にDPPAメカニズムが承認され、大口電力消費者がベトナム電力公社(EVN)を介さず、再生可能エネルギー発電事業者から直接電力を購入することが可能となった。これにより、RE100達成を目指す外資系メーカーの需要を取り込む余地が広がった。 また、工業団地や商業施設(C&I)向けの「屋根置き型太陽光発電(Rooftop Solar)」は、初期投資を抑えられるリースモデルやPPAを活用した第三者所有モデルが主流となりつつあり、急速に普及している。
洋上風力発電と外資参入のハードル 洋上風力発電については、安全保障や海域管理の観点から開発目標が2030~2035年へと後ろ倒しされた。さらに新たな規制により、外資系企業が国内送電網に電力を供給するプロジェクトに参入する場合、国が50%以上の持ち分を持つ国営企業(EVNやペトロベトナムの関連会社など)とのパートナーシップが義務付けられており(SOEからの出資比率は最低5%でよい)、早期のパートナー選定と関係構築が不可欠となっている。
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今回の寄稿ではベトナムについて触れました。東南アジア各国に出張する中で比較をしても、ベトナムは街なかの活気があり、若い方が多い印象があります。また、社会課題がまだまだ残る国でもあり、それは同時に投資機会や事業機会が多い国であることを示しています。ベトナム市場への進出や当地で事業拡大を考えていらっしゃる方にとって、今回の寄稿が参考になれば幸いです。なお、次回は、低迷していると思われがちなタイの成長市場について取り上げる予定です。
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内藤 靖統 (2026年5月)
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