(インド地域レポート/繁田)「インドの消費者市場–広がるプレミア化と日本企業への機会」

 インドの消費市場では、所得水準の上昇や都市化を背景に、従来の「安価であること」を重視する消費から、より高品質でブランド力のある商品やサービスを選ぶ「プレミアム化(Premiumization)」が進んでいる。自動車、スマートフォン、食品・飲料、化粧品、ホテル、外食など、幅広いカテゴリーでこの傾向が見られる。

 もっとも、インドのプレミアム市場は拡大しているとはいえ、中国と比べれば市場規模には依然として大きな差がある。重要なのは、現在の市場規模だけを見るのではなく、どの所得層・都市・カテゴリーでプレミアム化が進んでいるのか、そして今後どの層がその市場を押し広げるのかを捉えることである。

1.インドで進む「プレミアム化」:何が変わっているのか

 インドの消費市場は長らく、価格に対する感度が高く、「Value for Money」が購買の重要な基準とされてきた。しかし近年は、高価格であっても品質やブランド、デザイン、機能、体験などに価値を見出し、より高い価格帯の商品を選択する消費者が増えている。
 ICRAは、インド企業の間でプレミアム化が進んでおり、高価格帯・ブランド商品の成長が非ブランド商品や低価格帯商品を上回る傾向を指摘している。自動車、ホテル、FMCG、小売、アルコール飲料、スマートフォン、不動産など、幅広い分野でこの傾向が確認されている。背景には、一人当たり所得の上昇、都市化、グローバルブランドへのアクセス向上、消費者向けローンの普及などがある[1]。
 スマートフォンはその代表例である。Counterpoint Researchによると、2025年のインドのスマートフォン市場は数量ベースでは前年比1%増にとどまった一方、金額ベースでは8%増加した。小売価格3万ルピー以上の「プレミアム」カテゴリーは数量ベースで前年比11%増と最も高い成長率を記録し、全体の22%と、過去最高のシェアを占めた。このように、数量の伸び以上に高価格帯へのシフトが市場価値を押し上げている[2]。
 また、自動車ではMercedes-BenzやBMWなどの高級車ブランドも売上を伸ばしている。2025年にはBMW Group Indiaが18,001台を販売し、過去最高を更新した[3]。Mercedes-Benzは、販売台数では2025年は前年比2.85%減の19,007台にとどまったものの、トップエンドモデルの販売増により売上高は過去最高となった[4]。
 こうした様々なプレミアム~高級車にわたる需要拡大は、単に超富裕層が増えていることだけでは説明できない。富裕層の増加に加え、アッパーミドル層や上位中間層の一部が、カテゴリーを選びながらより高価格帯の商品へ「トレードアップ」していることが、インドのプレミアム化を理解する上で重要である。

2.プレミアム化を支える消費者:富裕層+アッパーミドル層へ

 プレミアム化の背景にあるのは、所得上昇に加えて、消費者の価値観そのものの変化である。
 第一は、高所得世帯の増加である。所得水準の上昇に伴い、高級車、ジュエリー、旅行、ホテル、外食など、従来は一部の富裕層に限られていたカテゴリーでも需要が広がっている。
 第二は、アッパーミドル層を中心とする「アスピレーション消費」の拡大である。必ずしもすべてのカテゴリーで高価格品を選ぶわけではないが、スマートフォン、自動車、化粧品、食品、外食など、自分にとって重要なカテゴリーではより高い金額を支払う「トレードアップ」が広がっている。こうした消費意識の変化は、都市部の富裕層だけでなく、より幅広い所得層や地域へとプレミアム消費を広げている[5]。分割払い(EMI)などの購入ファイナンスの普及も、高価格帯へのトレードアップを支えている[6]。Counterpoint Researchによると、2025年には実店舗で販売されたスマートフォンの40%がこれら購入ファイナンスを利用しており、₹30,000超のプレミアム端末ではその利用は約3分の2に達したという。購入ファイナンスは特にノンバンク金融会社が重要な役割を担っており、Tier 2・Tier 3都市では、クレジットカードを持たない消費者にもEMIを提供することで、高価格帯端末への買い替えを後押ししている。
 また、SNSや動画配信、Eコマースを通じて海外ブランドやライフスタイルに触れる機会が増え、ブランドや商品が自己表現の手段となっている。プレミアム消費はモノだけでなく、プレミアムレストラン、旅行、ウェルネス、ホテルなどの体験にも広がっている。
 このように、インドのプレミアム化は、超富裕層だけの消費拡大ではなく、所得上昇とアスピレーションの高まりを背景に、アッパーミドル層・上位中間層などがカテゴリーを選択しながら高付加価値商品・サービスへ移行し、プレミアム消費の裾野が広がっている現象と捉えることができる。

3.中国との違い:プレミアム化しても市場規模には大きな差

 一方で、インドのプレミアム化を評価する際には、中国との市場規模の違いを認識しておく必要がある。
 例えばラグジュアリー市場について、Bain & Companyによると、2025年の中国本土の個人向けラグジュアリー市場は約400~450億ユーロ規模とされる。一方、インドを含む中東、東南アジア、ラテンアメリカ、アフリカなどの新興市場を合わせたラグジュアリー市場は約400~450億ユーロであり、これらを合わせた市場が中国一国とほぼ同規模とされている。インド単独の市場規模を示すものではないが、現時点で中国とインドの間には大きな市場規模の差があることを示す材料となる[7]。
 高級車の販売台数でも大きな乖離がある。Mercedes-Benzの中国における2025年の販売台数は約55.2万台[8]であるのに対し、インドの同年売上は約1.9万台にすぎない。また、BMW Groupは中国で約62.6万台を販売した[9]のに対し、インドではBMW Group全体で1.8万台だった。
 したがって、「インドのプレミアム化」を「中国に匹敵するプレミアム市場が既に形成された」と捉えるべきではない。中国がすでに巨大なプレミアム・ラグジュアリー消費市場として成熟してきたのに対し、インドは現在、その市場が形成されている過程にあると考える方が適切である。
 ただし、これはインドの魅力を否定するものではない。前述のBain & Companyは、インドを含む新興市場が今後のラグジュアリー市場の成長エンジンになると見ており、2023年の分析では、若年層の多さや拡大する上位・中間所得層を背景に、インドのラグジュアリー市場が2030年までにその時点の規模の3.5倍に拡大する可能性を指摘している[10]。

4.インド企業も注目するプレミアム化

 注目すべきなのは、プレミアム化の担い手が外資系企業だけではないことである。インドの大手企業自身が、既存カテゴリーの「高付加価値化」を進めている。
 Tata Consumer Productsは、日常的な食品を扱うTata Sampannをプレミアム・パントリー・ブランドとして育成している。従来は無ブランドで販売されることも多かった食品に、品質、真正性、栄養、利便性などの付加価値を加え、ブランドとして差別化する取り組みである。Tata Sampannの売上高は2024年度に110.9億ルピーまで拡大し、前年比29%増を記録した[11]。2025年度にはさらに26%増となり、160億ルピーを突破している[12]。
 Titanは、時計やジュエリー、アイウェアなど複数のカテゴリーでプレミアム化を進めており、プレミアム消費の拡大を取り込んでいる。2025年度の連結売上高は前年度比32.7%増の7,607.8億ルピー、純利益は同52%増の507.3億ルピーとなった[13]。アルコールではRadico KhaitanがRampurなどの高価格帯ブランドを育成し[14]、インドの中間層による高品質な酒類への需要を取り込んでいる。同社はプレミアム化を成長戦略の柱としており、この戦略を背景に利益率が拡大している。2025年度第3四半期のプレミアム以上セグメントの販売量は前年同期比26%増、金額は同29%増だったという[15]。
 このように、インド企業も単に「安くて良い商品」を提供するのではなく、品質や機能、ブランド、ストーリーを組み合わせて「より高い価格を支払う理由」を作り始めている。
 また、大手企業に限らず、D2Cブランドもプレミアム化に照準を合わせている。パンデミック以降数多く登場したD2Cブランドには、ブランドメッセージやストーリーを前面に打ち出し、消費者の共感を得ながら成長する企業も数多い。スキンケアのMinimalistは、成分の透明性や科学的根拠を前面に出し、著名人を使った広告ではなく、商品の中身と消費者レビューを軸にブランドを構築した。2025年にはHindustan Unileverが同社の90.5%の株式を約270.6億ルピーで取得し、傘下に収めている[16]。
 食品のThe Whole Truthも、原材料をすべて開示する「Clean Label」をブランドそのもののストーリーに据え、プロテインバー、プロテインパウダー、チョコレートなどを展開している。単に「高品質な食品」を販売するのではなく、「何が入っているかを隠さない」という明確な思想をブランド価値に変えている点が特徴である[17]。

5.日本企業への示唆:14億人ではなく「どのセグメントの消費者を狙うか」が重要

 インドのプレミアム化は、日本企業にとって単なる販売機会の拡大ではない。市場の捉え方そのものを見直す契機になり得る。
 重要なのは、「14億人のインド市場」を一つの市場として見るのではなく、所得、都市、年齢、カテゴリー、ブランド志向、ライフスタイルなどによって消費者をとらえ、その中から自社の商品・サービスに対して支払意思のある層を見つけることである。
 特に日本企業の場合、マス市場で価格競争に入るよりも、まず品質、機能性、安全性、素材、デザイン、サービスといった自社の強みが評価されるプレミアム領域から市場に入り、ブランドを確立するという選択肢がある。
 ただし、ここでも「日本品質だから高くても売れる」と考えるだけでは不十分である。インド企業自身がブランド価値に注目し、プレミアム化を進めていることから、プレミアム以上領域における競争はすでに激しくなっているといえる。中国市場では、かつてローカル企業が品質やブランド力を高め、日系企業の市場シェアを奪ったという事例もあり、同様の展開がインドでも起こり得る可能性がある。
 日本企業に求められるのは、日本品質を一方的に訴求することではなく、インドの消費者にとっての価値を明確に定義し、それに見合う商品、価格、ブランド、販売チャネルを設計することである。
 中国と比較すれば、インドのプレミアム・ラグジュアリー市場はまだ小さい。しかし、その分、所得上昇と消費者層の拡大によって市場がさらに広がる余地は大きい。インドを「巨大な14億人市場」として一括りにするのではなく、プレミアム化が進むカテゴリーと消費者層を見極め、まず自社が提供できる価値が評価される領域から攻略することが、日本企業のインド市場戦略において重要になっていくだろう。

繁田 奈歩(2026年9月)


[1] https://www.icra.in/Research/ViewResearchReport/premiumisation-fuelling-the-current-chapter-of-india-s-consumption-growth-journey/6695

[2] https://counterpointresearch.com/en/insights/Premiumization-Gains-Strength-in-India-Smartphone-Market-in-2025-Apple-Records-its-Highest-Ever-Value-Share

[3] https://www.press.bmwgroup.com/india/article/detail/T0454848EN/unstoppable-high-performance-drive-bmw-group-india-delivers-record-breaking-annual-sales-with-high

[4] https://www.autocarindia.com/car-news/mercedes-india-sales-drop-by-nearly-3-percent-in-438805

[5] https://www.forbesindia.com/article/essec-business-school/premiumization-in-india-redefining-aspiration/96422/1

[6] https://kpmg.com/in/en/insights/2026/07/indias-premiumisation-wave-a-thesis-for-investors-and-founders.html

[7] https://www.bain.com/insights/finding-a-new-longevity-for-luxury/

[8] https://group.mercedes-benz.com/company/news/sales-2025.html

[9] https://www.best-selling-cars.com/brands/2025-full-year-global-bmw-and-mini-worldwide-car-sales/

[10] https://www.forbesindia.com/article/lifes/can-india-become-the-next-china-for-the-luxury-market/89583/1

[11] https://www.tata.com/newsroom/business/tata-sampann-premiumisation-innovation-digital-first

[12] https://mailcontent.icicidirect.com/mailcontent/idirect_tcpl_q4fy26.pdf

[13] https://www.livemint.com/companies/news/titan-maps-plan-to-double-business-by-fy30-on-premiumisation-global-expansion-11780582742713.html

[14] https://www.icicidirect.com/research/equity/trending-news/radico-khaitan-launches-new-products-under-rampur-jugalbandi-series

[15] https://www.arthneeti.com/insights/radico-khaitan-ltd-q3-fy26-earnings

[16] https://economictimes.indiatimes.com/industry/cons-products/fmcg/hul-acquires-majority-stake-in-minimalist-parent-co-uprising-science-for-rs-2706-crore/articleshow/120491096.cms?from=mdr

[17] https://thewholetruthfoods.com/