【アメリカ発チャイナウオッチ】『 第7回:米中対立長期化の中で』

前回3月末のコラムでは、今年2月の偵察気球問題以降の米中関係悪化について取り上げたが、5月以降、関係悪化に歯止めをかけるべく、米中政府高官間の対話が再開しつつある。5月10~11日にはサリバン大統領補佐官と中国外交トップの王毅氏が気球問題以来初となる米中高官間の会談をウィーンで実施、計8時間にも及ぶ議論を経て両国の衝突を避けるための対話継続の方針を確認した。その後、アジア太平洋経済協力会議(APEC)貿易相会合のため訪米中の王文濤商務相がレモンド商務長官(5月25日)、米通商代表部(USTR)タイ代表(5月26日)とそれぞれ会談を実施、半導体など先端技術をめぐる対立は残るものの、貿易・投資など経済分野での関与継続の重要性を確認した。

中国のゼロコロナ政策撤廃や水際措置緩和に伴い、ビジネス目的の往来も徐々に回復している模様だ。在中国米国商工会議所が4月下旬に実施した調査では、対中ビジネスを行う米国企業幹部のうち、「2022年末以降すでに中国を訪問した」との回答が43%、「2023年中に訪問予定」との回答が31%と、合計で7割以上に達した[1]

しかし、中国で事業を展開する米国企業にとって、米中対立が依然として最重要課題であることには変わりない。先述の在中国米国商工会議所の同調査によると、62%の企業が対中ビジネス課題のトップに「米中関係の緊張の高まり」を挙げた上、今後の米中関係の見方について「悲観的」「やや悲観的」との回答が合わせて87%にものぼった。また、今後2年の対中投資計画について「縮小させる」との回答は11%と、「拡大させる」(24%)や「変化なし」(40%)を下回り低水準にとどまったものの、投資縮小の理由に関しては「米中関係の不透明性さ」(26%)が「中国の成長鈍化」(23%)を上回り最も多い回答となった。業種別では、航空宇宙や医薬、通信機器・サービスなどの「テクノロジー・研究開発」で「投資を縮小させる」との回答が17%と4業種の中で最も多く(図表参照)、先端技術をめぐる米中対立が米国企業の対中投資に悪影響を与えていることが見て取れる。

多くの米国企業も想定しているように、米中の競争関係は中長期的に続くとみられる。米国国務省が2022年5月に発表した「中国に対するバイデン政権のアプローチ」では、中国を「国際秩序を再構築しようとし、そのための経済・外交・軍事・技術的な力を向上させている唯一の国」と位置づけている[2]。今後、共和党への政権交代が起こっても、両党が対中強硬姿勢で一致している現状を踏まえると、米国にとっての中国の位置づけは変わらないだろう。もちろん、気候変動など米中双方で利害が一致する分野での協力はある程度存在するだろうが、米国が国際秩序をめぐる競争相手として中国を認識し、中国側も米国の動きに対抗すべく科学技術や国防などの強化を急ぎ「国家安全」を重視する中、米中対立長期化のトレンドは不可逆的なものとなってしまった。

こうした米中対立長期化の中で、米国・中国いずれもと強固な経済関係を有する日本企業はどう対応すべきか。当然ながら、業種や対米・対中ビジネスの比率などによって異なる対応が求められるものの、大きな方針としては、①米中両国の規制動向の把握、②日本政府の経済安全保障戦略の把握・政府に対する提言、③規制・政策動向を踏まえた上でのサプライチェーンや販売戦略の見直し、④米中双方との対話継続、などが必要となるのではないか。

メディアでは、①に関する情報、すなわち米国の対中規制や中国側の対抗措置の動向、及びそれに関する米中政府高官の発言などが頻繁に取り上げられる。特に米国側の対中政策は、貿易(対中輸入関税)、技術(エンティティリスト掲載企業の拡大、半導体関連製品の輸出規制強化、米国市場からの中国通信企業・製品排除など)、直接投資(中国企業の対米投資審査、米国企業の対中投資規制案)、金融(米証券市場に上場する中国企業への監査強化)、人権(ウイグル強制労働防止法、人権侵害に関わったとされる企業への制裁)まで広範囲に及び、また動きも激しいため、報道が増えるのは自然なことではある。

ただ、こうした広範囲かつ複雑な規制動向を正しく理解すること自体は重要だが、これらはあくまで米中関係を構成する一部分でしかない。厳しい政治環境の中で、実際に米中それぞれのアクターがどう折り合いをつけながら関わっているか、ビジネス界、観光・留学・学術交流など人同士の交流がどう動いているかについても目を配った上で、日本政府への提言やサプライチェーン・販売戦略の見直し、対話継続に取り組むべきだと考える。

さて、昨年5月から隔月でお届けしたこのコラムだが、筆者の帰国に伴い、今回で最終回となる。なかなか日本からはイメージしにくいかもしれない「アメリカから見た中国」像について、微力ながら参考となる情報が提供できたのであれば幸いである。

(図表)今後2年(2023年~2025年)の米国企業の対中投資計画

(注)業種区分は以下の通り。

・消費関連:消費財、小売、ヘルスケアサービス、教育、メディア・娯楽、宿泊・旅行・レジャー
・資源・製造業:農業、自動車・輸送機器、機械、石油・ガス・エネルギー、その他(化学、鉱業、製紙・包装)
・技術・研究開発:航空宇宙、医薬、通信機器・サービス
・サービス:金融、不動産、交通・物流、投資、その他(法律、人材、会計、マーケティング、広告、研究、コンサルティング)

(出所)American Chamber of Commerce in China, “AmCham China Flash Survey on China Business Climate Sentiment Updates,” April 2023.

玉井芳野(2023年5月)


[1] American Chamber of Commerce in China, “AmCham China Flash Survey on China Business Climate Sentiment Updates,” April 2023. 調査期間は4月18日~20日。回答企業数は109社。

[2] U.S. Department of State, “The Administration’s Approach to the People’s Republic of China,” May 26, 2022.