【北京の二十四節気】立春-北京の路線バス事情-

立春-北京の路線バス事情-(201924日  曇り  最高気温 4℃、最低気温 -6

 

今回は、“立”のつく立春ですので、眞田が担当させていただきます。

筆者は根っからの理系人間、谷崎主筆のような文化の素養が無いもので、春節ではありますが、季節感の全くない乗り物の話にお付き合いください。

 

さて、我々駐在員にとって、かつての中国都市部の路線バスは近づき難いものでした。路線・経路が判りにくく、薄汚れた車体、いつも混んでいて、極めつけはその乗降時の押し合いへし合い! とても利用しようという気は起きませんでした。

ところが近年、バス車両と乗客のマナーの改善が進み、幹線道路でのバスレーンの設定、加えて便利なスマホアプリの登場で路線バスの利用が快適になっています。北京では地下鉄網も整備されていますが、駅での保安検査やホームまでの長い長い通路、乗り換え駅の利用者無視の構造など不満を感じてしまいます。このため、筆者は市内の近距離の移動には専ら路線バスを使うようにしています。

 

先ずは、最近の北京のバス事情を端的に示す次の写真をご覧ください。北京の東単の交差点の東南角から長安街の西方向を撮影したもので、奥が北京飯店、さらにこの先が天安門となります。

 

 

出所:20191月筆者撮影

 

この写真でご覧いただきたいのは、こちらに向かって走ってくる2台の路線バスです。前を走るのは従来型のディーゼルエンジン車ですが、これに続く赤色のバスは、北京市が誇る最新型EV(電動車両)バスです。

北京では、路線バスのクリーン化が進められています。クリーンなバスとは車体や車内の清潔さではなく、環境への影響を減らすということです。クリーン・バスとされるのは、天然ガスエンジン車と新能源(エネルギー)車と呼ばれるEV、ハイブリッド車とトロリーバスですが、現在クリーン化の主力となっているのはEVです。

201710月の時点で北京市内を走る路線バスは23,000台で、新能源車が19%、天然ガスエンジン車が34%、ディーゼルエンジン車が47%となっています。これを、2020年末にはEV1万台とし全体の60%とすることを目標にしているとのことです。

なお、都市交通のEV化の先進都市は深セン市で、201711月の時点でバス16,000台すべてがEVとなっています。さらに同市では2020年にタクシーの100%EV化を達成するとしています。

 

 

出所:201812月筆者撮影

 

この写真の最新型EVバスですが、GTQ6186BEVBT3型と呼ばれ、東京メトロ丸ノ内線の新型車両2000系のようなデザインになっています。

北京市内を走る路線バス、通称“公交”のEVバスには、この写真の左上の拡大写真にある電池とEVの文字を組み合わせたマークが付けられています。漢字は、“电动汽车(電動汽車)”です。また、ナンバープレートも新能源車を示す緑色になっています。

この最新型EVバス車両は、珠海広通汽車有限公司が製造したもので、2017年末から北京の路線バスの看板路線、長安街を東西に走る“1路”に投入されています。見たところ既に1路のバスの半数以上はこのEVバスになっています。公表されているスペックでは、全長18mの連節構造で、モーターの最大出力が220kW(キロワット)、搭載しているバッテリーは、チタン酸リチウム電池で、急速充電により15分間で充電が完了し、1回の充電で走行できる距離は130kmとなっています。またこの車両には、PM2.5対策として空気清浄器が初めて搭載され、車内環境の改善も図っているとされています。

 

このほか、北京市内には様々なタイプのEVバスが走っています。次の写真に示すように、水色の2ドア車や2階建て車、さらには黄色の小型コミュニティーバスなどがあります。

 

 

出所:201812月筆者撮影

 

 

出所:20191月筆者撮影

 

下の写真の黄色のバスですが小型の車体ではありますがなかなか凝った造りとなっています。ボディ側面に電気回路の図が描かれています。これを見るとモーター駆動となっていますが、電源としてバッテリーと天然ガスを燃料とするエンジンで回す発電機が搭載されたハイブリッドシステムとなっています。

 

出所:20191月筆者撮影

 

読者の皆様が北京を訪れた際には是非EVバスの多さを実感していただきたいと思います。

 

それでは続いてトロリーバスを紹介します。トロリーバスは皆様ご存知のように道路の上に張られた架線から電気をとってモーター駆動で走るもので、日本では無軌条電車とも呼ばれています。ちなみに、中国では“無軌電車”となります。下の写真は、北京の崇文門交差点を連なって通過するトロリーバスです。

 

 

出所:20191月筆者撮影

 

トロリーバスは、日本では長野県大町・扇沢から黒四ダムに至る関電トンネルでの運行が昨シーズンで廃止され、今年からEVバスに置き換わることとなり、唯一残るのが立山黒部アルペンルート中の1路線(室堂駅-大観峰駅間)のみとなってしまいましたが、中国では北京、上海や広州などで主要な市街地路線を担っています。

最近の北京のトロリーバス車両はバッテリーを併用していて、架線が無い所でも走ることが出来るようになっています。その代表的な場所が長安街を横切る地点です。長安街は景観上の理由などにより道路上に電線が張られていません。このため長安街を南北に横切るトロリーバスは、手前で架線から電気を受ける2本の集電ポールを降ろし、バッテリー駆動で長安街を横切ります。下の写真は、集電ポールを下げた状態で東単交差点を通過する様子です。

 

 

出所:20191月筆者撮影

 

このトロリーバスは、長安街を渡り架線が設置されているところに達すると再び集電ポールを上げます。

ひと昔まえの中国のトロリーバスは、カーブや車体の振動などで、よく集電ポールが架線から外れていました。その度に乗務員が降り集電ポールを架線に戻していました。かつての中国をご存知の方は、立ち往生したトロリーバスと車体後部で集電ポールの先端から下がっているロープを引っ張っている乗務員を目にされたことがあると思います。

現在、集電ポールの上げ下げは、運転席からの遠隔操作で行われています。集電ポールを上げる様子を撮影しましたので、次のリンクをクリックして動画をご覧ください。この動画では、集電ポールを降ろして走行しているトロリーバスとEVバスの走行の様子もサウンド付きでご覧になれます。

トロリーバスの動画をみる】

 

それでは最後に北京の路線バスの乗降方法などをご説明します。

バスのルートは、スマホの地図アプリで簡単に検索できます。出発地と目的地を入力し、公共交通機関での移動を選択すると、地下鉄やバスを利用する候補ルートが表示されます。

下の画像は、中国の標準的な地図アプリ“百度地图”で北京の長富宮飯店から天壇公園南門に移動するルートを検索した例です。左の画面が検索結果で、乗車するバス/地下鉄の路線番号が表示されています。リアルタイムの渋滞情報を反映した予想所要時間も示されます。一番上のお薦めルートを選ぶと右の画面のルート地図が表示されます。更に文字での経路案内や、停留所までの徒歩ルートのナビゲーション機能などもある優れものです。出張先の馴染みのない都市でもこれがあれば安心してバス/地下鉄を利用できます。

 

 

 

バスの停留所では、北京の場合3ドアの連節車では中央から乗車し、前後の2つのドアが降車口となっています。2ドア車では前方から乗車し、後方から降車します。バス料金は10kmまで2元となっています。乗車口の脇にICカードをタッチする読み取り機があります。北京では、降車の際もタッチが必要です。ICカードを使用すると運賃が半額になるので1元で乗車できます。

北京の交通ICカードは“一卡通と呼ばれ、これで地下鉄にも乗れますが、他の都市では使えません。これは他の都市の交通カードでも同様です。このため、筆者は、次の写真、上から順に、北京に加え上海と深センのカードも用意しています。北京と上海のカードは味気の無いデザインですが、深センにはいろいろなデザインのカードがあります。写真のドラえもんのほかに、ハローキティのカードもありました。

 

 

 

以上、EV化が急速に進むとともに、利便性と快適度が進化している北京の路線バス事情、お知り置きいただければ幸いです。

 

 文・写真=日中経済協会北京事務所電力室 眞田 晃 

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★本コラムについてはこちらから→【新コラム・北京の二十四節気】-空竹-



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