【北京の二十四節気】春分-北京中医医院-

春分-北京中医医院(2018321日 曇り 最高気温 11、最低気温 1

 

北京では、昨日まで全国人民代表大会が開かれていました。この大会のハイライトの一つである憲法改正は3月11日に可決されましたが、その夜から北京の大気は汚染の一途をたどりました。翌12日から14日までの3日間、指数は毎日200以上、ひどい時には340を超えることもあり、この冬最悪となりました。まるでこれからのなにごとかを暗示しているようでした。

 

【北京中医医院の全景】

 

さて、今回は「北京中医医院」を紹介します。中医」は中国医学のことです。中国医学と聞くと「漢方」と思われるかもしれませんが、中国医学と漢方は違います。漢方は日本漢方ともいい、中国から伝来した中国医学をもとに、日本の気候や日本人の生活習慣に合わせて長い年月を経て、独自に発達したものです。

※なお、「中国医学」と「中医学」では若干意味が違うが、ここでは中国医学に統一する。

 

【北京中医医院の正面玄関】

 

北京中医医院は1956年に開設された三級甲レベルの中国医学の総合病院です。「三級ならば低級」と思われるかもしれませんが、中国では三級甲は最高レベルです。現在、北京には57ヵ所の三級甲レベルの病院があり、そのうち、中国医学病院は12ヵ所、西洋医学病院は45ヵ所です。

この12ヵ所の一つである北京中医医院は、北京のほぼ中心部、故宮の北門である神武門から2㎞ほど北東に行ったところにあります。ベット数は1,400床、診療科目は80、年間220万人が受診に訪れています。

 

【沢山の医師の情報が並ぶ大きな電光掲示板】

 

北京中医医院の1階ロビーの左側には、大きな電光掲示板が置かれています。この掲示板には、針灸科、泌尿器科、神経科など80に及ぶ診療科目ごとに、医師の名前、ランク、専門分野、出勤日と時間、そして登録費が表示されています。診療科目のなかには「男科」というのもありました。切実な人が多いのかもしれませんし、けっこう効くのかもしれません。

 

【総合受付】

 

この病院の診療の流れを簡単に紹介しますと、まず、登録費を払って医師の診察を受け、次に、医師の指示による治療費を支払ってやっと治療を受けることができます。薬も同様に薬代を払わないと貰えません。中国では先にお金を支払わないと診察も治療もなにもしてくれません。まさに現金主義なのです。

※登録費は診断費のようなもので、医師によって異なる。この病院では一番安い副主任医師は60元(約1,000円)、その後80元(約1,400円)、100元(約1,700円)と分かれ、特別ランクの医師は300元(約5,100円)。

※医療保険は後日精算。勤務先や年齢などによって複雑な計算式があり、自己負担率は一般的には23割程度。

 

【薬の窓口に並ぶ人の列】

 

診察と治療、それぞれに事前支払いがあるため、最後に一括支払いができる日本と比べて何度も順番を待つことになります。数えてみると、①登録費の支払いで待ち、②診察で待ち、③治療費支払いで待ち、④治療で待ち、⑤薬代金の支払いで待ち、⑥薬で待ち、以上6回“待ち”がでてきます。このように、患者は病院に来ると悪化してしまうほど長い時間がかかります。通常、北京の人たちは、このような事態になることが分かっていますので、患者一人で病院に行くことはほとんどありません。子供ならば父母から祖父母まで、大人ならば夫や妻から両親や兄弟まで、家族総出が一般的です。

 

【針灸科の前で順番を待つ人々】

 

今回は友人の診療に同行して針灸科を訪れました。当日は運悪くVIPが突然来たようで、担当医はそちらを優先したために、我々は2時間以上待たされました。先ほどの6回“待ち”は一般庶民の話でして、特別階層の人たちは裏ルートから入って、別室で診察・治療を受け、裏ルートから帰っていきます。針灸科の前でじっと待っている庶民はそれを分かっていながら、みな見てみぬふりをしています。

やっと友人の順番が来て、勇んで診察室に乗り込んだのですが、担当医から「写真撮影は規則が厳しくなったために、病院の外事部門の許可を貰ってからにして欲しい」とやんわりと断られてしまいました。そのため、治療中の写真がありません。がっかりですがご了承ください。

 

【診療室の中】

 

針灸といえば、まず、皆さんが不安に思われる針は、長さ10㎝ほどの細くしなやかもので、すべて使い捨てです。

撮影を禁じられた治療風景は担当医と話をした数分間だけ垣間見ました。医師は患者の話を聞き、手で患者の肩や腰などを触って症状を確かめると、一つの針で34ヵ所のツボを何の躊躇もせずにトントントンといった感じでスムースに刺しては抜き、刺しては抜いていきます。患者によっては、刺す前に、脱脂綿にアルコールを浸して火をつけ、針をその火であぶって同じように刺しては抜きます。患者は熱い針が刺さると「うっ」と声をあげ、体をそらせます。友人に聞くと、あの針が刺さる瞬間、ジュッと皮膚が焼ける感覚があり、全身に痛みが走るそうですが、これがまた効くのだそうです。隣のベットでは、2030本の針を頭や顔に突き立てハリネズミのようになったおじさんが緊張した面持ちで横たわっています。

 

【戦利品のように山になった煎じ薬を抱えて】

 

薬は専門のカウンターで調合してもらいます。日本ではその煩雑さから煎じ薬はほとんど姿を消したと思いますが、本家の中国ではまだ中国医学といえば煎じ薬が主役のようです。山のように沢山の袋をかかえている人を多く見かけます。

 

【おーい、やっと呼ばれたよ!】

 

科学的な根拠を持つ西洋医学、三千年の歴史を有し陰陽五行説を基本理論とする中国医学、現在では、中国医学と西洋医学の良いところを採った中西医結合も盛んに行われています。

中国の人たちに話を聞くと、中国医学を全く信用しないという人がいる一方、とても信用するという人もいます。特に、西洋医学の病院でMRIなど最新設備を使っても分からなかった病因を、中国医学の大家に見せたところ一目で言い当てたといった話はよく耳にします。いろいろな選択肢があることは、中国人にとって幸せなことかもしれません。

文・写真=北京事務所 谷崎 秀樹

 

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★本コラムについてはこちらから→【新コラム・北京の二十四節気】-空竹-



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啓蟄-北京のシェアリング自転車-2018/3/6

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