【北京の二十四節気】大寒-東来順-

大寒-東来順 (2018120日 曇り 最高気温 3、最低気温 -6

 

ちょうど1年前、羊肉のシャブシャブの名店『聚宝源』(『2017120日大寒』を参照)を紹介しました。その際、北京に駐在されたことがある方々から、

「シャブシャブと言えば『東来順(dong lai shun)』だろう!」

「『東来順』は今もあるのか?」

「『東来順』を紹介して欲しい!」

といったご意見を多数寄せられました。

 

【厚切り羊の太陽盛り】

 

やはり鍋ものは寒くないといけませんので、1年間お待たせしましたが満を持して『東来順』を紹介します。

まず、ご質問にお答えしますと『東来順』は今も、有ります。あるどころか直営店20余、加盟店130余、合計150店以上を擁し、中国のほとんどの大都市をカバーするほどまでに成長しています。

 

【東来順本店が入っているショッピングモール『北京apm』】

 

この一大チェーンの総本山は王府井にあります。王府井大街と金魚胡同という二つのメインストリートが交差するところに「北京apm」というショッピングモールが建っています。その5階、「美食街」と名付けられたフロアーの一角に『東来順』本店が入っています。

 

【羊の後ろもも肉】

 

この場所は『東来順』発祥の地です。1903年、丁徳山という河北省から来た苦力(クーリー、「肉体労働者」の意)が王府井の東安市場で粥売りを始め、努力を重ねて店を大きくしていきました。店名は「自分たちは『東』から『来』たもので、商売が『順』調にいくように」という願いを込めて、創始者の母親が付けたといわれます。この東安市場が現在の「北京apm」なのです。

 

【東来順の店内。奥の黄色の字が毛澤東の揮毫】

 

店内は通路からも見えるようにしゃれた作りになっています。店名が刻まれた重厚な額をくぐると、直ぐに眼に入ってくるのは「東来順は永遠に保存しなければならない(東来順要永遠保存下去)」という毛澤東の揮毫(きごう)です。これは水戸黄門の印籠の数万倍もの威力が文革時代など以前の中国にはあったのでしょうが、彼の神通力が消えた今となっては見上げる人がほとんどいません。4人掛けのテーブルが沢山並んだ客席の奥はオープンキッチンになっています。ここから調理師たちがきびきびと働く姿を見ることができますので、楽しくもあり、安心感もあります。

 

【オープンキッチン】

 

とにかく、北京の人たちは「羊肉のシャブシャブ(羊肉shuan yang rou)」が大好きです。独特の形をした銅製の鍋、筒の中に入れる木炭、羊肉、いろいろな調味料が入ったたれ、付け出しのように一緒に食べる「にんにくの砂糖漬け」、野菜、豆腐などなど、北京のシャブシャブは沢山の楽器が揃ったオーケストラに似て、全てが集合して初めてハーモニーを奏でることができるのです。彼らにとって、このオーケストラを揃えるということは、皇帝時代から続く帝都としての誇りであり、先祖から伝わる大切な宝物でもあるのです。

 

【湯を鍋に注ぐことを稼業にしているおじさん】

羊肉」を愛する北京の人たちにとって『東来順』は憧れの存在でした。この店は、先ほど言ったとおり1903年開業ですから、まだ100年強と老舗中の老舗というほど古くはありません。しかし、経営戦略が良かったのです。一頭の羊からシャブシャブ用の肉は半分も取れないそうです。この店では、宮廷や政府の高級官僚をターゲットとして選りすぐりの肉を提供し、銅鍋などオーケストラのメンバーも全て一流を揃えるなど高級路線を採用しました。同時並行して庶民路線も忘れませんでした。庶民には残った肉を餃子の餡や肉団子に利用して粥や炒め物などと一緒に提供したのです。こうして幅広い客層と高い名声をつかんでいったのです。

 

 

【我々のテーブルについてくれた服務員】

 

今ではシャブシャブ専門で、庶民的な炒め料理は提供しませんが、品質は高級路線を継承しています。羊肉は内蒙古自治区の特定の産地で育った去勢された綿羊だけを使います。写真で紹介したとおり部位や切り方などによって、沢山のメニューがあります。特に、「手切り羊肉」は、一般の店では固いだけで美味しいものが少ないのですが、この店のものは柔らかく、そして弾力もあり、噛むほどに羊のよい香りが沁みてきます。食事が進むに従い、銅鍋のなかの木炭は真っ赤に燃え盛り、時おり、粉雪のような白い灰を舞い上げます。それにつられて肉の旨みがあたりを包むのです。

 

銅鍋の用意が出来ました!手前が「伝統手切り新鮮羊肉」、右が「ラム肉」

 

実は、1年前に紹介した『聚宝源』のなかで、こんなことを書いています。

「(聚宝源は)私がこれまで食べた『羊肉』のなかで、一番美味しいと感じた店です。」

こう言い切ったため、冒頭のとおり『東来順』に思い出の深い方々からご意見をいただいてしまいました。それでは、中国の美食家に登場していただき、二つの店の特徴を説明してもらいます。

 

『聚宝源』は若者にとっても人気のある店あるね。若者、羊の臭い、好きでないね。だから、ラム肉(生後12ヶ月未満の羊)のメニュー多くして、食べやすくしているよ。

『東来順』は老舗あるね。伝統強いよ。逆に羊のクサミ好きね。老北京(「昔からの北京っ子」の意)はいつも『クサミが有る羊肉でないと羊肉ではない』と言うよ。」

 

【東来順のたれ、右奥がにんにくの砂糖漬け】

 

私も北京に来た12年は羊の臭みが鼻につきましたが、4年目を迎え『老』に近づきつつある身となっては、逆にクサミがたまらなく好きになっているのです。

告白します。

「やっぱり『東来順』は美味しい!!!」

 

東来順本店:北京市東城区王府井大街138号 北京apm 5

文・写真=北京事務所 谷崎 秀樹

 

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★本コラムについてはこちらから→【新コラム・北京の二十四節気】-空竹-



★過去掲載分:

小寒-農村のイヌ屋-2018/1/5

2017年掲載分

2016年掲載分