【挿隊的日子~下放の日々~】(8)

8.「死磕蚊蝿」~ハエや蚊との徹底抗戦~

 

農村では、私たちは天候と戦い、畑と戦うだけでなく、ハエや蚊とも戦わなければならなかった。

農村のハエや蚊は、沢山いるのではない。もうめちゃくちゃにものすごく沢山いるのだ。

得意げにブンブン飛び回るハエは大胆不敵で、一日に何度顔にぶつかってくることか。太陽や風に晒されて農作業をしている私たちは皮が厚くなってしまっているからいいようなものの、そうでなければ皮膚を突き破られてしまう勢いだ。

ハエは人が嫌がるのを知っていながら体の上を独特のすり足で這いまわり、そのむずむず加減といったら本当にイライラしてしまう。

それにも増して腹立たしいことは、大きな口を開けることができないということだ。うっかりすると、ハエが口に中に飛び込んで旋回をはじめてしまうからで、不測の事態を避けるために、私たちはできるだけ口をすぼめていることになる。

一方、悪賢くて貪欲な蚊は、食い意地が張っていて隙あらば人を刺してくる。蚊に刺されて赤く腫れ上がったところがない者なんて一人もいない。蚊の口器はとても長く、女性看護師が手にしている注射器のようでもあり(刺してくるのはメスの蚊だけなので)、時代劇ごっこをして遊ぶ子供たちが振り回している赤い房の付いた長い槍のようでもあって、「一撃必“血”」が蚊の得意技。

刺されれば痒いのはもちろんだが、もっと悩ましいことは熟睡中に夜襲をかけられることだ。パチンパチンという蚊を叩こうとする音と、怒りの声が一晩中続く。蚊の方はというと、キーンという特有の周波数を発しながら、全く意に介さず、である。

蚊の襲来を迎え撃つため、私たちは蚊取り線香を焚いたり、蚊帳を吊ったり、農薬を撒いたりしたが、その効果は微々たるものだった。

そこで私たちは共倒れとなる強硬手段に打って出た。

DDT、DDVP、トリクロルホン、六塩化ベンゼンなどの濃度の高い農薬を薄めて、直接身体に塗りつけたのだ。効果は絶大。

これでハエや蚊を撃退することに成功した。ハエや蚊が寄り付かなくなったのはいいのだが、強烈に鼻を突く薬品臭で喘息を発症した者もいた。その上、皮膚アレルギーを起こして真っ赤に腫れ上がり、蚊に刺されたのと変わらなくなってしまった。これぞまさに一難去ってまた一難。

この「惨劇」は、夏から秋にかけて毎年きまって「再演」され、私たち全員がその「劇」の登場人物であった。

 

(2017/12/26掲載)