(九州地域レポート)【九州地域レポート(2025年11月)】

  1. 在福岡中国総領事館にてGBA視察mission報告会・中資企業協会及び九州華僑華人連合会との交流会
    10月28日、在福岡中国総領事館にて楊慶東総領事臨席の下、福岡貿易会の紹介に加え9月に実施した、香港・広州・深圳を巡る華南地区Greater Bay Area視察の結果報告会を行った。
    質疑応答で、中資企業協会側出席者から、高市政権の行方・日中関係の今後についてどう思うか、との大変高所からの質問があり、小生から「非常に答えづらいご質問だが、日本政府の関係者もいない席なので個人的見解を述べさせていただく」旨を前置きしたうえで、高市総理は、中国政府及び中国人全般にとって、おそらく最も総理大臣になってほしくなかった候補ではないかと直言した。即ち、高市総理は、①所謂親中派ではないこと、②靖国神社に積極的に参拝してきたこと、③どちらかというと台湾に近しい人物であることの三点を理由に挙げたが、政治と経済は全く別物であるし、日本、特に九州にとっては、中国は最も近い大国であり、陰りは見えてきているとはいえ非常に重要な隣国で、競争ではなく協調できる関係を更に強化していきたい、と回答した。
    その後、既承の通り高市総理の台湾有事発言から日中関係がぎくしゃくしているのが気になるところであり、少なからず影響も出始めている。
    当初在福岡中国総領事館より、12月に江蘇省から約25名の企業代表団が来日・福岡を訪問し、幾つかの製造業を視察したいとの申し入れを受け、手配を進めていたが、現状の日中関係に鑑み来日時期を延期したいとの連絡を受けているほか、12月2日に予定されている福岡貿易会の年末講演会・交流会にも当初は副総領事の出席が予定されていたが、急遽代理人の出席も中止し不参加の連絡を受けた。
    さらに、福岡県では友好姉妹都市協定を結んでいる江蘇省に11月19~20日に県内自治体や企業が訪問し会議を開催する予定だったが、江蘇省からの申し入れで延期になったとの報道もある。

  2. GBA視察先のその後の情報
    10月21日に日本貿易振興機構(ジェトロ)が公表した情報では、我々がGBAにて視察したEHang社等が開発する有人eVTOL(電動垂直離着陸機=いわゆる空飛ぶ車)を深圳市内で事業展開する際に、深圳市交通運輸局が1,500万元(約3億1,500万円)の補助金を支給する旨発表された。これらの動きは、低空経済のサプライチェーン上の企業の育成、技術イノベーションの奨励、応用シーンの拡大等を助成する目的がある由。9月に訪問した広州科学城では、運転台がなく運転監視員も乗車していない自動運転車にも試乗し、乗客に全く不安を感じさせない運行も体験したし、更にドローンの開発・運用等に関しても、中国・香港は日本の数年先を走っている印象が強い。

  3. フィリピン・ブルネイ訪問結果
    11月17日~25日、フィリピン・マニラ及びブルネイ・バンダルスリブガワンを訪問し、現地経済視察を行った。
     ① フィリピンは人口約1.13億人、2050年には1.34億人となる見込み。平均年齢約25.7歳(日本の平均年齢は49歳)の人口ボーナス真っただ中の労働力豊富な国で、年少人口(0~14歳)が人口の約30%を占めることから、毎年、約200万人が生産年齢人口に加わる計算であり、雇用創出が不可欠ではあるが、経済活動の多くは第1次産業と第3次産業に頼っており、国内で粗鋼生産がなく、多くの原料や燃料を輸入に頼っていることから、電力をはじめとするエネルギー原価が高く第2次産業の成長が見られないため、約1,200万人が海外での出稼ぎに出ており(内在日フィリピン人は約34万人)、GDPの約1割を海外への出稼ぎ労働者からの送金が占めているとの実情は驚きであった。また所得階層ピラミッドの上位15%のA,B,C高所得層と85%を占めるD,E低所得層の所得格差は非常に大きく、経済格差の縮小による社会の活性化を図ることは大変な困難を伴うものと思われる。公共交通機関もODA等によって整備されようとしている真っ最中であり、日常の交通渋滞が激しく、経済損失は非常に大きいといえる。
    日本との関係は極めて良好で、対日輸出(第2位)並びに日本からの輸入(第3位)ともにフィリピンにとって重要な貿易相手国である一方、中国との関係は、現政権に替わって以降は、対中強硬・親米政策に転換しており、貿易面では輸出(第4位)、輸入(第1位)と良好ではあるが、外交面では南沙諸島の領有権を巡り微妙な関係が続いている。
     ② 一方、人口僅か約45.5万人、国土面積は三重県とほぼ同等(5,765㎢)で、1984年に英保護領から完全独立を果たしたブルネイは、敬虔なイスラム教徒である第29代国王(来年生誕80年)により統治されており、政情は極めて安定している。石油と天然ガスが産出されていることから、一人当たり名目GDPでは、OECD加盟国中38位の日本よりも上位の36位で経済的にも安定している模様。しかしながら、訪問前には高級車フェラーリの人口当たりの保有台数は世界一を誇ると聞いていたが、街中ではそれなりの高級車は走っていたものの、現地では一台もフェラーリを見かけることがなく、後で現地ガイドに聞いた話では、フェラーリは殆ど王族が所有しているもので、一般市民のフェラーリ保有はまずないとのことであった。立憲君主制により国王がOil & Gasで得た富を国民に分配しているのが実情で、国会はあるが議会選挙はなく、大臣他国会議員は全て国王からの指名によるとのこと。
    鉄道等の公共交通機関は整備されていないが、道路交通も渋滞はほとんどなく、フィリピンで多く見かけたオートバイや三輪自動車の類は一切目にすることはなかった。今後の国家経済の目標としては、非石油・ガス部門で過半数とするよう石油・ガス下流産業、食品事業や観光資源開発、ICT産業等の高付加価値産業に注力する方針とのことであった。
    尚、豆知識として、ブルネイ王国は所謂ボルネオ島北部にあるが、ブルネイ王国の歴史は古く、600年以上前にマレーシアからの移民により水上集落として建国され、ブルネイ王宮も水上集落に造られた。現在では立派な王宮が陸地に建造されているが、一時はマレー半島やボルネオ島全土並びにフィリピンの島々もブルネイの版図とされた時期もあったようで、ボルネオ島の名前の由来も、当地を訪れたポルトガル人が「ブルネイ」と聞いたものをポルトガル語の訛りで「ボルネオ」と発音したのが始まりだと聞かされた。

  4. 博多港アイランドシティコンテナターミナルが全国で唯一CNP認証の最高評価を獲得
    国土交通省港湾局では、脱炭素化に配慮した港湾機能の高度化や水素・アンモニア等の受入環境の整備等を図るカーボンニュートラルポート(CNP)の形成を推進しているが、本年6月から全国のコンテナターミナルにおける脱炭素化に向けた取組の実施状況をレベル1~5までの多段階評価を行う認証制度「CNP認証(コンテナターミナル)」の運用を開始した中、博多港アイランドシティコンテナターミナルが全国で唯一認証レベル5+の最高評価を獲得した。
    レベル5の取得要件として、港湾脱炭素化推進計画の作成やインバーター制御方式のガントリークレーンの度入、低・脱炭素型トランスファークレーンの導入等があるが、これらの6つの要件を全て100%満たしていると評価された。

  5. 九州地域(特に福岡)でのインバウンド需要は引き続き堅調
    福岡空港国際線の合計便数は、2025年9月見込値2,048便(対前年比108%)、10月見込み2,209便(同113%)と着実に増加している。福岡空港出入国者数では、出入国者数合計で2025年8月実績で798,198人(前年同月688,927人)で外国人出入国者数は2025年8月の実績値で615,310人(前年同月525,840人)。一方、日本人出入国者数も2025年8月実績値で182,888人(前年同月163,087人)と純増はしているが、2018年同月比では88.2%にとどまっているのが現状。
    九州運輸局は、2025年1~9月の九州7県への外国人入国者数が、415万6,635人で過去最多だった2018年同期を1割上回った旨公表した。9月単月では、速報値としての船舶観光上陸者数を除いても前年同期比15.1%増の37万3,926人だった。1~7月の入国者数を国・地域別にみると中国は1.5倍に伸びたとのこと。
    ただ、今般の中国外交部からの訪日自粛の呼び掛けの影響からか、沖縄で中国・香港からのクルーズ船の寄港が中止されたり、福岡空港や佐賀空港でも中国便LCCの運休や減便が相次いでおり、渡航自粛が長引くようであれば来年の春節に向けて影響が大きくなる可能性もある。

以上

平塚 伸也(2025年11月)