本レポートでは、中国の地方や分野別のビジネス環境改善の要点と関西経済との有意な関係性について、ポテンシャルを含めた考察をシリーズで試みていきたいと考えています。その準備段階として今回は先ず、中国のビジネス環境の2025年初めの改善動向を日本からの視点と共に俯瞰的にみることから始めたいと思います。
2025年初めの中国ビジネス環境改善
以下(表1)は、25年2月16~21日の「2024年度日中経済協会合同訪中代表団(日中経済協会、日本経済団体連合会、日本商工会議所)」と何立峰中国国務院副総理はじめ経済主要3官庁との会見・会議抄録(注1)から整理したものです。
表1 中国のビジネス環境改善に関する日本企業からの視点と25年初めの動向

表1は、日本の経済界の要望(視点)から整理したものですので、特定の課題にフォーカスされているように見えるかもしれません。他方、特筆すべき点の一つは、読者の方がたもすでにご承知の通り、表中の下線部分(「中国政府の説明」の冒頭「総論」)で言及された「外商投資奨励のための具体的措置」が、この説明がなされた直後の2月19日には商務部と国家発展改革委員会の「2025年外資安定化行動方案」として国務院弁公庁から発表されたことです。
特に日本に向けては、25年2月24~28日の中国商務部凌激副部長兼国際通商交渉副代表一行の来日による東京と大阪での「中国外資政策セミナー」(当機構と中日投資促進委員会との共催)の機会に、中日投資促進委員会秘書長である朱冰商務部外国投資管理司長から、①秩序ある自主開放の拡大、②投資促進レベルの向上、③プラットフォーム機能の開放増強、④サービス保障力の強化に関する20項目のアクションプランの要点説明がなされました。23年発表の24項目の「外商投資環境の更なる最適化と外商投資誘致力の強化に関する国務院の意見」からの継続施策ですが、今年は何をすべきなのか、という問題意識を明確化したものと思われます。
中国の各地方、関係部門には、25年内に各項目の効果的な実施による外資の信頼確保、具体的には重点たる地域や外資系企業への訪問、外資系企業の要望への深い理解、その関心への有効な対応といったことが求められています。
大阪・関西万博と中国各地方のビジネスプロモーション・上海のケースから
さて、4月13日に開幕された大阪・関西万博に伴い、中国パビリオンでは、地方の省・市・自治区等によるウイーク・デーが続々と展開されています(表2)。これに伴い、中国各地方によるビジネスプロモーションイベントが会場外でも相前後して行われており、各地方からの最新のメッセージに接することのできる効果的な場となっています。
さらに申せば、前述のような相当のスピード感を伴う国レベルのビジネス環境改善圧力のもとで実行されているという背景のもとで、各地方のビジネスニーズとともに、ビジネス環境改善の特徴と実効性がより鮮明に浮彫にされてくるかもしれません。
今回は、国の「2025年外資安定化行動方案」に先行するタイミングで「2025年ビジネス環境行動方案(いわゆる「ビジネス環境最適化行動方案8.0」)を発表した上海のケースをご紹介します
表2の通り、万博の中国パビリオンの上海デーは、ウイーク・デーの有終の美を飾る位置づけとなっています。一方、5月8~9日には、万博会場から至近距離にあるインテックス大阪で「2025『上海之帆』経済貿易(人文)巡回展—日本展」という「興味深い」イベントが開催されました。大阪府との友好提携45周年(24年は大阪市との提携50周年)と「万博都市」という関係性も重視され、来日した上海企業による万博視察・交流も活発に行われたようです。因みに出展者は150企業、20業界団体という相当規模のものでした。
筆者が感じた「興味深さ」の要素は主に以下の三つが挙げられます。
☞12年からの「上海之帆(Shanghai Fair)」はこれまで中東欧、ASEAN等十数カ国で過去18回も開催されてきたなか、日本では初の開催であること。
☞主催は「上海市工業経済連合会」、「上海現代サービス業連合会」と「上海公共外交協会」、中国のサポート機関は上海市政治協商会議対外友好委員会とされ、開幕に続いてメッセージ性の高いフォーラム「上海之帆・アジア対話—区域から出発するグローバルな視野(Shanghai Fair・Asia Forum—A Worldwide Perspective with Local Foundations)」が一体的に行われたこと。
☞ゲストスピーカーは上海、大阪のみならず、タイとマレーシアの代表も招かれ、前述のフォーラムではタイ代表から「中小企業の発展を促進するビジネスエコシステムの構築」、マレーシア代表から「マレーシアの経済成長~新興工業国に向けて~」という、テーマに呼応したメッセージ発信が行われたこと。
また、本フォーラムでは、出展者の中心的存在である「上海市松江区」から「松江:『上海のルーツ』から先進製造業の高地へ」、主催団体の一つ「上海市工業企業連合会」からは「上海の工業配置の向上、中日産業協力の展望」が語られました。いずれもそれぞれのターゲットが分かりやすく表現されていました。
なかでも印象深かったのは、主催団体のなかで先にスピーチした「上海現代サービス業連合会」の「グローバル都市の現代サービス業―上海の貢献」の最後で述べられた以下のメッセージです。
☞「大阪の精緻さ、上海の広大さ、ソウル(註:これは日本展に続き韓国展が開催されたからと思われます)の俊敏さ、東南アジアの活力などを融合することで、アジアのグローバルバリューチェーンにおける地位を高め、不確実性に満ちた世界に安定装置と新たな成長エンジンを提供できる。」☞「これを踏まえて四つの『アジア行動イニシアチブ』を提案したい:
(1)『アジアデジタルトラスト港』の共創:アジア商工会の間で、データの安全な越境流通を促進。
(2)『グリーンサービス標準連盟』の共同構築:上海と大阪をパイロット地域とし、サービス業のカーボンニュートラル認証を策定。
(3)『アジア人材流動マップ』の共同制作:複数の都市間で自由移動可能な「人材通行証」を試験的に導入。
(4)『スマート物流イノベーション回廊』の共創:上海、大阪、バンコクなどアジア都市の強みを融合し、世界をリードする越境無人配送ネットワークへ。」
このイベントに相前後し、上海のビジネス環境に関する新たな情報発信が上海からなされています。それは、『解放日報』の報道によれば、世界銀行の『2025年度中国企業調査レポート』で、調査対象の上海企業に関わる59評価項目のうち22項目につき、上海は中国全土および東部エリアの平均レベルを遥かに上回り、世界最高水準に達した、というものです(INVEST SHANGHAI EXPRESS No.256 2025.5.5-2025.5.11 https://www.investsh.org.cn/jp/jpzxyd/index)。
これらについて、筆者自身もまだまだ消化はおろか咀嚼し得てはいません。
前半に述べた国のビジネス環境改善措置としての「2025年外資安定化行動方案」との関係性にも鑑みつつ、上海発信のイニシアチブはどのように具体化が模索され実行されるのか、日本・関西経済・企業にプラスとなり得る可能性があるとしたらどのようなことなのか、温かい心で冷静に見出せればと思います。 読者の皆さまからも、感想やご提案をいただければ大変有難く存じます。レポート発信は2カ月に一度の頻度ではありますが、大阪・関西でお会いしてご意見交換などさせていただく機会があれば猶更幸いです。
表2 中国パビリオンのイベントスケジュール

https://www.ccpit.org/expochina2025/a/20250211/202502118kxp.htmlの日本語部分。
【 】は今後のビジネス等のプロモーションイベント予定を大阪産業局、日中経済協会、日中経済貿易センター等の案内から付記

十川 美香(2025年5月)