(東南アジア地域レポート)【ASEANにおけるEV・自動車産業の動向と中資系企業の勢い】

 中国国内においては、昨今EVをはじめとして中国自主ブランドの勢いが強く、2024年には国内乗用車の中国ブランド販売比率が65.2%、2025年に入っては7割まで到達している。そのようなトレンドの中、2020年頃より中国メーカー各社は海外へも活路を広げており、今回はその動きを踏まえたASEAN(タイ・インドネシア・ベトナム)におけるEV・自動車産業の状況を見ていきたい。
 まず、筆者が所在するタイでは自動車(四輪)市場全体として、国内経済の状況や自動車ローン厳格化の影響により、2024年における新車販売台数は前年比26%減の57万台と2年連続で減少傾向の厳しい状況が続いている。うちバッテリー式電気自動車(BEV)の占める割合は約13%であり、その中でのシェアを見ると、「BYD」(比亜迪汽車)が39.5%、次いで「MG」(上海汽車グループ)が12.2%、「NETA」(哪吒汽車)が11.7%と中資系企業、特にBYDの勢いが強いことが分かる。タイのEV奨励策に後押しされる形で現在中資系8社がタイにてEV生産の工場を稼働しているが、中資系だけでタイの年産能力は約58万台(予定含む)と言われ、過剰生産とそれに伴う過度な値下げ競争が懸念されている。一方で、2026年以降ハイブリッド車(HEV)やマイルドハイブリッド車(MHEV)、プラグインハイブリッド車(PHEV)に関する政府の奨励策が発表されており、日系メーカーの攻勢が期待されるとともに、現在約8割のシェアを保持する日系メーカーの比率が今後どのように推移していくかが注目される。

 次に、インドネシアにおいては、タイと同様2024年における新車販売市場は前年比14%減と低調だが、EVの販売台数は伸長している。メーカー別のEVでは、2024年に同国市場に参入したばかりの「BYD」が1.5万台と首位に立ち、「SGMW」(上汽通用五菱汽車)が1.3万台と次ぐ。2023年には、現代自動車が首位だったが、中国勢の台頭により販売台数は失速している。同国の自動車販売の売れ筋の特色として、家族の人数が多いことから多目的乗用車(MPV)の人気が高く販売台数の上位を占める。付加価値税・奢侈税の減税や現地生産を条件とした輸入関税の免除といった奨励策も出されており、中資系メーカー4社の生産工場が既に稼働しているだけでなく、その他複数の同メーカーが現地生産を発表している。なお、現地二大財閥系自動車企業ではEVに対するスタンスが異なり、トヨタ、ダイハツ、いすゞといった日系と組んでいるアストラグループはHEV重視、中国勢などと組むインドモービルグループはBEVを重視している。今後は、同二大自動車企業の動向に加え、都市部における法人需要やバッテリー事業に関する動向なども注目される。

 最後に、ベトナムの状況を紹介するが他の2国とは様相がやや異なる。2024年における新車販売台数のうちBEVは9万台と約18%の割合を占めるが、実態はベトナム民族資本のビンファストが約8. 7万台と独占している。特に、同社は充電無料の大型販促を2027年6月まで打ち出しており、車体価格の安さと合わせて日本車の脅威となっている。一方で、「BYD」、「MG」といった中国勢も2024年より参入を開始しているが、中国からの輸入関税50%やビンファストの充電設備が使えないことなどがハードルとなり、プレゼンスはまだ低い状態である。EV生産に特化した優遇策は未整備だが、BEV・PHEVの販売に関する税制優遇策は導入されている。一方、HEVに関する優遇策導入についても働きかけが行われているところであり、日系メーカーの動向含め注目されている。その他、今後ビンファストの独走が続くのか、またASEAN域内の他国での生産の方がコストメリットが依然あることに鑑みベトナムの現地生産が中資系メーカー含め今後どれほど進むのかが注視される。

 現在、続々と新モデルを発表している中国ブランド各社も中長期的には業界集約が進むと予想され、現に海外で販売を行う各社も「BYD」のように「戦略的に販路を広げる企業」と、中国国内の状況から「必要に迫られて海外に活路を見出す企業」の二極化が進んでいる。そのような点も踏まえ、今後のASEAN各国における進出状況やシェアは継続して変化していくと考えられ、引き続き日系・中資系企業の動向を中心として注目していきたい。

香月 義嗣(2025年5月)