タイの成長産業に関する展望
2025年のタイ経済は、社会構造の変化や政府主導の産業政策、都市化の進展などを背景に大きな転換期を迎えている。そこで今回は「今後注目すべきタイの成長産業」について市場動向と将来性について紹介する。
まず、タイには10個のメガトレンドがあると考えている。キーワードを挙げると、①タイ社会の民族的多様化、②タイ人の教育・学習需要の変化、③少子高齢化に伴う人口構造の変化、④都市開発の加速、⑤高付加価値アグロフードへの経済シフト、⑥所得格差の縮小、⑦大企業の影響力拡大、⑧資源管理と地球温暖化への対応、⑨政府の役割の変化、⑩政治的不確実性だ。こうしたメガトレンドを背景に、今後のタイ市場における成長産業を5つ紹介したい。
一つ目は、スマートホーム関連産業である。タイでは都市化とスマートシティ政策の推進により、同市場が急成長している。特にバンコクや主要都市では、若年層や富裕層を中心にスマート家電やIoT機器の導入が進んでおり、2025年から2029年にかけて市場規模は4.4億ドル(年平均成長率12.2%)に達する見込みである。主要製品には、スマート照明、セキュリティシステム、エネルギーマネジメント機器、音声アシスタント連携型家電などがある。タイ大手通信会社グループのTrue OnlineがAI技術を活用した同事業参入を2025年に発表するなど新規プレーヤーも増えている。一方で、消費者の認知度や初期導入コストが課題であり、認知度向上や価格戦略が普及の鍵となっている。
二つ目は、高齢者向けケア産業である。タイは2023年に「高齢社会」(60歳以上の人口が全人口の20%以上)に突入し、2029年までに「超高齢社会」(65歳以上の人口が20%以上)に入ると予想されている。これに伴い、介護施設、医療機器、生活支援サービスなどの需要が拡大しており、2023年から2030年にかけて市場規模は749億ドル(年平均成長率4.6%)に達する見込みである。バンコクを中心に介護施設の数は年平均25.1%で増加しており、外国人退職者の需要も高まっている。サービス内容は、看護・医療ケア、レクリエーション、遠隔健康モニタリングなど多岐にわたる。文化的な抵抗感も徐々に薄れつつあり、スマートコミュニティ型の高齢者住宅開発が進んでいる。
三つ目は、教育産業である。タイの教育市場は、デジタル化とスキル重視の流れにより急速に拡大している。2025年から2033年にかけて市場規模は470億ドル(年平均成長率15%)に達する見込みである。特に中間層・富裕層の拡大に伴い、インターナショナルスクールやバイリンガル教育など、質の高い私立教育へのニーズが高まっている。EdTech分野では、クラウド型教育プラットフォーム、評価システム、オンライン学習サービスが普及しており、SkillshareやCourseraなどのグローバルサービスも利用されている。STEM教育、英語力、デジタルリテラシーが重視され、企業向けeラーニングや特別支援教育も拡大している。
四つ目は、食品製造業(高付加価値食品)である。タイの食品製造業は、都市化と健康志向の高まりにより、即食(RTE)食品や機能性食品、植物由来食品などの分野で成長している。その他の成長製品群として、冷凍食品、缶詰、スナック、健康飲料、プレミアムチョコレートなどがあり、ASEANや欧米向けの輸出も拡大している。フードサービス市場を見ると2025年から2030年にかけて市場規模は514億ドル(年平均成長率7.8%)に達する見込みである。また、「Future Food」分野では、政府が植物性食品や機能性食品の導入を推進しているが、課題としては、国内需要の低さと価格競争が挙げられる。
五つ目は、電子・光学機器製造業である。タイの電子産業は、政府の「タイランド4.0」政策により、スマート製造やIoT導入が進んでいる。HDDやICの輸出は2025〜2027年にかけて年平均成長率9%前後で拡大が予測されており、EMS(電子機器製造サービス)やOEM/ODM事業が活発化している。高齢者向けウェアラブル機器やeコマース関連製品が成長分野であり、スマートファクトリー化に向けたERPシステムやAI・IoT技術の導入が進んでいる。ECC Digital Parkなどの政府主導の開発拠点も整備されており、Delta Electronicsなどの大手企業もスマート倉庫や物流ソリューションを展開している。
前回投稿記事では、在タイ日系企業が「4重苦」に直面していると紹介したが、タイはマクロ視点でみるとASEANの中でも特に産業構造の転換が進んでおり、急成長が見込まれる産業も多数ある。その中で、在タイ日系企業は将来トレンドを予測しつつ、「次の成長事業の種」を見つけていくことが望まれる。
香月 義嗣(2025年9月)
