『中国各地の停電は、急進的な新エネ車普及に警鐘を鳴らす』

中国では最近、各地で停電が相次いでいる。昨年年末も大規模な停電は起こったが今年は第3四半期末から各地で停電が頻発している。特に東北の一部の地区は予告なしにブレーカーを切られて停電し、世論の不満と中国の電力供給をめぐる多くの論争を引き起こした。 

全国各地で起きた構造的な電力不足の背景には、総じて石炭価格の上昇などによる供給不足のほか、景気回復や受注増による電力需要増などさまざまな要因があるとみられているが、近年の新エネ車の急速な発展も、中国の電力システムに衝撃を与えかねないと主張する論調もある。 

実際、2020年の電気自動車の電力使用量は、社会全体の電力使用量の約0.3%、生活電力使用量の約2%をそれぞれ占めているというデータがある。現状からすると、新エネ車の普及は電力システムに与える影響は限定的である。ただし多くの都市ではネット配車の大部分は電気自動車になっている。多くの電気自動車は昼間に急速充電が必要である。急速充電スタンドの使用のピークは日中になると、局地的な電力供給圧力が発生することは必至である。 

昼間の電力供給逼迫時に充電が制限されれば、配車サービスで生計を立てているドライバーの収入に影響する。とくに突然の停電を恐れて、まだ充電する必要のない電気自動車も、次々と充電ステーションに殺到している。最近、多くの地域で電力制限が行われている影響で、ドライバーの多くは従来1日1回の充電頻度を1日2回から3回に引き上げている。 

現在、電気自動車を含む新エネ車が自動車保有台数に占める割合も2021年上期現在わずか2%に過ぎない。今後、電気自動車は、多くの欧州諸国のように半数以上に普及すれば、状況が深刻化するであろう。 

もう一つ見逃してはならないのは、中国のエネルギー源別電力供給の現状である。現在電力供給における火力発電は中国ではまだ7割を占めており、水力発電は17%、原発はここ数年急速に発展しているが、その割合はまだ5%にとどまっている。国を挙げて拡大しようとする再生可能エネルギーに至っては、年間の発電量全体の10%にも満たない(2020年)。 

人々は新エネ車が走行中に炭素を排出するという事実に注目しているが、新エネ車は電力に依存し、これらの電力は火力発電によるものであれば、程度の差こそあれ大規模な炭素排出は避けられないという本質を見落としてはならない。 

それに加えて、バッテリーの製造と廃棄に伴う環境汚染を加味すると、中国にとって新エネ車は実は思ったほど環境に優しいわけではない。それだけにはとどまらず、電力供給への負担増、内燃エンジン車から新エネ車への自動車産業チェーンの転換コスト、雇用への悪影響、新エネ車生産能力過剰、資源の無駄遣いなど、中国社会全体に対して無視できない悪影響が予想される。われわれは、先行している中国の新エネ車普及の過程における様々な問題を分析し、日本の自動車産業の健全な発展のためによい参考としなければならない。

(2021年10月 主任研究員 廖 静南)