(関西地域レポート)【中国15・五規劃要綱の課題解決――シルバー・ヘルスケア分野】

 従来から重視度が高められてきたシルバー・ヘルスケア分野は、2026年3月の中国全人代で決定された15・五規劃要綱でも、国家戦略としての積極的対応・深化が明らかにされました。今回は、15・五に向けた議論等がなされた2025年の本分野の政策動向をレビューしつつ、2025年7月の関西での「対話山東」でもみた本分野の課題解決・協力交流としての可能性をフォローアップしたいと思います。

15・五規劃要綱と2025年のシルバーサービス政策動向

 2026年3月5日~12日に開催された中国第14期全国人民代表大会(全人代)第4回会議では、2026年から30年までの「国民経済社会発展第15次五カ年(15・五)規劃要綱」が決定されました。18編62章からなる15・五規劃要綱では、第11編「人口発展戦略の改善 人口の質の高い発展促進」のなかで、第37章「生育配慮型社会の構築」、第38章「人々の満足する教育を良好に行う」、第39章「健康中国の構築加速」と共に、第40章「人口高齢化への積極的対応」が提起され、第40章は、第1節「都市・農村シルバー(養老)サービスネットワークの改善」と第2節「高齢者に豊富で多彩な生活を創り出す」から構成されています(後掲の表1前段参照)。
 比較のために、5年前に決定された「第14次五カ年規劃と2035年長期目標要綱」(19編65章)をみてみると、第13編「国民の資質向上 人の全面発展促進」のなかで、第43章「質の高い教育システム構築」、第44章「健康中国構築の全面推進」と共に、第45章「人口高齢化国家戦略の積極的対応実施」が提起されており、枠組は共通していますが、第45章は、第1節「適度な生育レベルの実現推進」、第2節「乳幼児発展政策の健全化」、第3節「シルバーサービス体系の改善」という構成でした。従って、過去5年間を経て、高齢化対策と少子化対策の位置づけがそれぞれランクアップされ、シルバーサービスのさらなる具体化が求められつつあると言えそうです。
この傾向は、15・五に向けた議論等がなされた2025年の本分野に関する活発な政策発表に表れています(後掲の表1後段参照)。
 基本指針は、2024年12月に作成され(2025年1月に公表され)た「中国共産党中央・国務院のシルバーサービス改革発展の深化に関する意見」に示されました。本意見では、2029年までのシルバーサービスネットワークの基本形成、2035年までの中国の国情に適したシルバーサービス体系の成熟・定着などが目指されています。この目標実現に向けて、2030年(15・五)末までのシルバーサービス技能人材の職業技能等等級認定業務の推進加速、中央と地方の財政資金のシルバーサービス消費補助、秩序あるシルバーサービス施設配置計画編制、地方毎のトライアル拡大後の統一された「国家長期介護保険制度」構築加速、そして、こうした諸側面の課題解決に資するシルバーサービス標準体系構築など、必要な諸側面を含む政策パッケージが始動していることが読み取れます。
 地方でも、例えば昨年の本レポートで全国を牽引する高齢化対応をご紹介した山東省では、2025年12月に山東省人民政府弁公庁から「長期介護保険制度構築改善に関する実施意見」が出され、2026年までの都市・農村の本制度の基本設立、2028年までの全面実施が明記されたこと等が注目されます。

表1 15・五規劃要綱の高齢化対応と2025年のシルバーサービス政策動向

日中シルバー交流・協力への介護事業経営者の視点

 こうした一連の政策が15・五期間中に目標通り実現すれば、かねてより指摘されてきた中国介護保険制度の必要性といった問題解決をも得て、日中ビジネス交流・協力の新たな可能性が具現化するのでしょうか。また、日本、特に関西と山東省など中国のシルバー分野での交流・協力現場には、現在どのようなニーズがあるのでしょうか・・・等々、前述の政策動向を目の当たりにして、様々な問いが湧き上がってきます。
 この問いに本レポートが即答できるわけではありませんが、大阪商工会議所からのご紹介を得て、素晴らしい関西企業経営者にお会いすることができました。2019年から山東省でシルバー事業(「秀林田中養老服務公司」)に参画してこられた田中知世子・ピースクルーズ株式会社代表取締役です。介護人材育成対応などでもご多忙続きのなか、2月末の1時間弱、優しく温かく、時にエネルギッシュに語ってくださった田中代表の視点について、あくまでも私の理解に基づき整理してみると、以下のような問題意識を持たれているように思われました。

  • ※日本では、介護保険が2000年に始まって27年目となるなかで人間対人間という仕事のなかでの多様な課題が起こっている(人材不足、介護職の人のメンタル面、エッセンシャルな仕事の賃金、この仕事についてリスペクトしてもらっている状況であるか、高齢者と職員の間の人間対人間の仕事が進行するなかで起こり得る問題、それを解決していく教育等々)。これらが中国に当てはまるかというと、風習は異なるにしても、人間に起こり得る問題は共通するところがあるのではないか。
  • ※中国では、以前は日本の進んでいるところ、例えば介護のケアプランなどに関心を持たれたが、IT活用と相俟って非常にスピーディーに取り入れて自分のものにされている。特にロボットの利用などは2歩も3歩も先に進んでいるかもしれない。日本の介護保険のもとでは、例えば人員基準などもあって、ロボットに完全に置き換わることは有り得ず、人手不足には海外人材の受入れで対応しつつある。中国の場合はその点が異なり、人手の課題に対するロボットの合理的な導入への転換は相当速い可能性が高いのではあるまいか。

 このような問題意識のもとに田中代表は、アジアの人と人との関係、家族関係や親孝行といった欧米とは異なる文化をも念頭としつつ、介護する人の心理的負担を軽くし、介護者の心が平穏であれば介護される人もさらに快適になるという環境づくりに向けて、「ノーリフトケア」、楽にケアをするという考え方とそれに基づく技術(工夫やアイデア)をしっかりと伝えつつ、ロボット導入の可能性等も含めて「一緒に勉強していきたい」との思いをお持ちでした。
 2023年7月に完成されたテキスト『みんなが笑顔になる がんばらないケアのポイント–「ていねい」「まじめ」「おもいやり」でもっと素敵なケアになる!』・『让人人充满微笑 无微不至的轻松护理关键技巧–「细心」「认真」「体贴」会成为更完美的护理!』(写真参照)が、今後もより多くの現場の人々に読まれ、活用され続けることを願ってやみません。

十川 美香(2026年3月)