(関西地域レポート)【大阪・関西万博での対中交流所感と今後のビジネス環境】

 大阪・関西万博もついに閉幕。公式参加者褒賞での中国パビリオンの「展示デザイン部門」金賞受賞をはじめ、中国各地方のウイーク・デーイベントの連続など、中国からの参加はインパクトあるものでした。本レポート前半では、これらイベント・プロモーションに約40回参加した日中経済協会関西本部事務局長・今村健二氏[1]による、万博での対中交流所感を紹介します。また後半では、ウイーク・デーイベントのトリを飾った上海市の投資環境紹介にフォーカスしつつ、中国のビジネス環境改善の今後の方向性への理解深化を試みたいと思います。

1.大阪・関西万博・対中交流で印象深かった三つの要素――今村健二・日中経協関西局長 談

(1)中国の魅力の再発見
 日中経済協会での40年にわたる勤務の中で、6カ月という短期間にこれほど多くの中国各地の方々と集中的かつ密接に交流した経験は万博が初めてでした。それぞれの地方がプロモーションビデオや講演、展示、商談会、パフォーマンスなどを組み合わせ、工夫を凝らしたイベントを実施し、積極的に投資誘致に取り組んでいたことが印象的でした。
 各種イベントへの参加を通じて、中国の魅力を再発見できたように思います。どの地域にも共通するのは、経済・文化・観光の資源が豊かに備わっているところであり、同時に、これら資源には各地の多様性と独自性が息づいていました。
 特に心に残ったのは、中国には是非訪れてみたい、体験してみたい観光資源がまだ数多く存在し、それを生かす試みがダイナミックに進行していることです。例えば甘粛省では、砂漠という地形を活用した斬新なデザインのホテル開発が進み、まるでドバイを思わせるような砂漠観光の高付加価値化が図られていました。
 また、各地のパフォーマンスでは、伝統的な歌や琵琶・二胡・笛・太鼓の演奏、舞踊、武術、人形劇などに加え、現代的なファッションショーも披露されました。歴史と伝統の香りが豊かで、高い芸術性と娯楽性を併せ持った中国のソフトパワーの力強さを体験することができました。
 日本から中国への観光客数は伸び悩んでいるといわれます。しかし、大阪・関西万博で得た見聞を踏まえると、中国旅行にはたくさんの魅力が備わっているように思います。友好都市交流を行っている自治体によれば、学生交流で初めて中国を訪れた若者たちは皆、口を揃えて「行って良かった」との感想を述べているそうです。
 アウトバウンドを活性化するためには、日中の旅行会社が連携し、重点とする客層や対象地域、提供する体験を明確化した上で、中国各地が誇る自然・歴史・文化(食を含む)を最適に組み合わせた旅行ルートやプランの開発・プロモーションを進めることが重要です。さらに、自治体が継続している学生・青年交流プログラムの一層の充実など、中国のイメージ向上につながる様々な取り組みについても、引き続き検討を深める余地は大きいと考えます。

(2)対日マーケティングへの関心
 中国各地方の政府・団体・企業関係者の皆さんは、投資誘致を推進する一方、日本で貿易・投資を展開したい、事務所を開設したいなど、非常に自信に満ちた様子で日本とのビジネスに積極的でした。皆さんには是非、JETROや大阪商工会議所が行っている対日ビジネス支援の仕組みを活用していただきたいと思います。
 例えば、「雲南デー」に合わせて「第8回関西地区日中企業経済交流会」を兼ねて開催された雲南省のプロモーションイベントでは、雲南プーアル Aini 荘園コーヒーの劉明輝董事長がプロモーションを行いました。劉氏はアメリカ留学経験に裏打ちされたグローバルな経営視点を持ち、対日マーケティングに対しても強い関心と熱意を示していました。
 また、地元産白酒のプロモーションも活発で、中国国内市場に留まらず、海外市場でも販路を拡大しようという強いマーケティングの意欲を感じました。例えば、貴州省の「習酒」は、白酒の本場である同省の名酒であることを強調し、力の入ったブランドプロモーションを展開していました。山西省の汾酒も「青花汾酒」という新ブランドをお披露目しました。このお酒は、日本市場向けにアルコール度数を抑え、焼酎に近いマイルドな味わいを実現し、販促用に可愛らしいマスコットも作成していて、日本市場に挑戦する姿勢に好感を持ちました。

(3)活性化する日中間の経済交流促進ルート
 万博を通じて、日中間の経済交流を促進するルートが活性化していることが見えてきました。まず、地方自治体ルートです。日本の地方自治体と中国各地が、歴史ある友好省県や友好都市、経済協力協定などの枠組みを発展させて実効性のある交流を続けており、そのルートを活用して学生など若い世代の訪中視察・研修交流が行われています。中国各地が主催する万博のイベントでは、多くの地方自治体関係者が招かれていました。
 次に、経済団体ルートです。関西では、関西財界訪中代表団の派遣団体である関西経済連合会、大阪商工会議所、京都商工会議所、神戸商工会議所、関西経済同友会、日中経済貿易センター、当協会関西本部などが従来から中国との経済交流を促進しており、各団体が今回の万博でも重要な役割を果たしました。
 そして、中国側が組織している各種の在日団体ルートです。関西では、メンバーの出身地を問わない西日本中華総商会、大阪華僑総会、西日本中国企業連合会などの横断的な組織が活発に活動しています。これに加えて、存在感を増しているのが、中国各地出身者が立ち上げた同郷会や総商会など様々な名称の団体です。一般社団法人として法人格を有している場合が多く、東京・大阪・名古屋などに拠点を構え、万博では様々なイベントの企画・運営や集客を担い、会場を大いに盛り上げていました。こうした団体の中心メンバーは、日本で長年ビジネスを展開してきた「走出去」の成功者が多く、明るくエネルギッシュで、出身地への強い愛情を原動力に活動しています。その姿から、中国コミュニティが日本社会にしっかりと根を下ろし、日中経済交流の活性化に確かな役割を果たしていることを実感しました。

写真1:「第6回中国遼寧省輸出商品展示会」出展者と今村氏(右)
写真2:「中国広東省・関西環境ビジネスマッチングセミナー」で「日中省エネ・環境技術データバンク」等を紹介
写真3:山西省「青花汾酒」のマスコット

2.中国のビジネス環境改善の新たな動向――上海のアプローチから 

 大阪・関西万博の中国パビリオンでリレー開催された地方省・市・自治区デー・ウイークの有終の美を飾ったのは、10月10日の上海デーでした。これに際して当日午前に大阪市内のホテルで行われた「上海·関西経済貿易交流会(主催:上海市国際貿易促進委員会、上海国際商会)」では、「緑色協同 生機未来(グリーン協力とライフサイエンスが創る未来)」をテーマに、①グリーン・低炭素協力の議論と展望、②ライフサイエンス協力の議論と展望、③ハイエンド製造業協力の議論と展望、④上海市と大阪市の投資環境紹介のプレゼンテーション交換が行われました。閉会の瞬間、「ものすごい情報量でしたね」との感嘆の声が聞こえたのですが、私も全く同感でした。

(1)上海のビジネス環境と国際的評価
 今次レポートでは、湯超・上海市商務委員会二級巡視員による投資環境紹介「上海に投資し、チャンスを共有し、未来を勝ち取ろう」を参考として、ビジネス環境の改善にフォーカスしてみます。このなかでは、目下の最速発展エリアの一つとして2019年設立の「臨港新片区(新エリア)」と区内の「日系中小企業(上海)国際産業パーク」が推奨されていました。同日の配布資料によるP.R.の要点(例)は表1の通りです。
 湯・二級巡視員によれば、このような上海のビジネス環境は、「世界最高水準とされるものの一つ」であり、また、「政府各部門の海外ビジネスマンへの招致・サービスの態度」については「世界最良で他に並ぶものはなく」、そのことは、世界銀行の全世界への投資環境審査での上海への継続的な肯定的評価と評価数値の年々の上昇により裏付けられているとのことです。
 現時点(2025年11月28日)での世界銀行の最新公開・ビジネス環境報告書『Business Ready (B-READY) 2024』 は対象が絞られており、中国については香港のみしか詳細を読み取ることができないようですが、対象が拡大されていく今後の推移を注目したいと思います。

(2)中国のビジネス環境改善の方向性
 世界経済における中国の影響力の増大によりもたらされる変化は、中国内外のビジネス環境の予見性からして如何なる方向性のものなのか、具体的に理解を深める必要がありそうです。その一つの切り口として、世界銀行はじめ国際組織によるビジネス環境評価への中国国内の重視度をみてみると、それは一貫して高い状態が維持されているように思われます。
 例えば、国家市場監督管理総局が2023年から実施している「全国市場監督管理系統・気風整備3年堅塁攻略専門行動」という中国独特の政策によるビジネス環境最適化推進の2024年度の優秀実践事例評価においても、上海市市場監督管理局が「世界銀行のビジネス環境評価の先進的な理念に学び、企業の情報変更手続きでの『一気通貫・自動変更』モデル導入のイノベーションを実現したこと」を「全国ベスト10」の一つとして選出しています[2]
 また、中国のビジネス環境改善に長期的かつグローバルな視点から取り組んでいると思われる中国国際貿易促進委員会では、同委員会に商業界委員会・ビジネス環境モニタリングセンターを設け、目下(2025年11月6日~12月6日)、本センター起草による団体標準「ビジネス環境モニタリング能力要求(案)」のパブリックコメント徴求を行っています[3]。この「パブコメバージョン編纂説明」では、その編纂の意義の一つを「国際ルールに基づく標準化、国際競争力の向上(原文は「对标国际规则,提升国际竞争力」)とし、「世界銀行のビジネス環境報告の更新停止後(訳注:2021年に廃止が発表された『ビジネス環境の現状(Doing Business)』報告書を指していると思われます)、世界では更に包括性のある評価体系が切に求められている。本標準は国情に立脚するという基礎の上で、国際的な先進的経験(例えば、OECDのビジネス環境評価フレームワーク)を参考として、我が国のモニタリング体系と国際的な取組みとを連携させ、中国企業の海外進出とグローバルリソースの導入に資するものとする」と説明しています。
 少なくともこれら二つの例から読み取れる中国のビジネス環境改善の方向性は、従来の国際的な取組みの先行経験にも準拠しつつ、中国企業とグローバルリソースのために中国の独創性を活かすという柔軟なものなのではないか、というのが現段階の筆者の見立てです。


[1] 交流の実務支援に加え、今村健二・日中経済協会関西本部事務局長のレポート「大阪でも中国を巡る~大阪・関西万博 中国パビリオンの楽しみ方」(『日中経協ジャーナル』2025年7月号、26頁)は経済人等読者から好評を博した。

[2] 国家市场监督管理总局「市场监管总局公布“行风建设助力优化营商环境”2024年十大优秀实践案例(上)」https://www.samr.gov.cn/zt/ndzt/2023n/hfjs/zjyw/art/2025/art_8514dd8910ff4fd0801205b9f5a93e9c.html (2025年2月21日)

[3] 中国国際貿易促進委員会商業行業委員会「关于公开征求对《营商环境监测能力要求》团体标准(征求意见稿)意见的通知」 http://www.chbeo.org.cn/article_view.aspx?classid=7&id=8619 (2025年11月11日更新)

十川 美香(2025年11月)