(北陸レポート)【第4回地域レポート】

 眼鏡業界における「Made in Japan」問題について

 2025年は鯖江の眼鏡発祥120周年の記念の年である。このタイミングで、福井県眼鏡協会が「Made in Japan」品質の信頼性を守るために、会員企業に対して原産地表示順守を求める取り組みをスタートさせた。200を超える眼鏡枠製造工程の内、研磨や表面処理の一部の工程だけを日本で行い、その他の工程の多くを受け持つ中国メイドの眼鏡枠が「Made in Japan」を謳い、海外で販売されている。これには、現在欧州を中心に「Made in Japan」が一種のトレンドになっている背景がある。眼鏡の原産地国表記については、詳細は割愛するが、公正取引委員会の『施行規則第14条第2項』に定められており、罰則規定もある。したがって、日本国内販売はせず、海外市場で販売されているのである。
鯖江では、「Made in Japan」には2種類あると言われている。
①公取規定順守の純正日本製
 金子眼鏡に代表される日本国内製造「鯖江Made」のジャパン・ラグジュアリー(日本の”本物“を感じる贅沢品)としてのブランドを構築している。中国で富裕者層への販売は、信頼のジャパンブランドが必須である。
②公取規定に対してグレーな日本製(いわゆる“ナンチャッテ日本製”)
 中国で組み立て、最終工程のいわゆる“お化粧直し”を日本で行うもので、精度や耐久性が劣る粗悪品を「Made in Japan」としている「Made in Japan」の信頼性への“ただ乗りビジネス”と言える。
 一方、業界情報によると、既に中国資本の会社が福井・鯖江地区で眼鏡の製造を開始している。うち一社は倒産した眼鏡工場をそのまま買収。さすがのスピード感である。進出目的の一つは、「Made in Japan」として輸出販売すること。眼鏡協会に加盟していないので、その信頼性は明らかではない。
 公正取引委員会の規定は2007年の施行である。私がかつて眼鏡業界に関わった2000年当時も同じ問題で騒ぎとなっていた。今更ながらではある。要は、「守っている人は守っていて、守らない人は守らない」のであり、今回の原産国表示を今まで守ってきた(と協会が言っている)会員企業に、改めて誓約書を提出してもらうことに何の意味があるのかと個人的には感じている。今後、誓約の実効性をいかに担保していくのであろうか?
 ところで、眼鏡に限らず、「Made in Japan」は現在も真に優れているのだろうか?それはもう過去の栄光にすがる妄想ではないのか?チタン製眼鏡は鯖江の技術が上だが、アセテート製眼鏡の技術は中国の方が優るとの意見も聞いている。鯖江では芸術品の域に達する職人技があると言いながら、その担い手の職人は高齢化している。一方で、最新鋭の機械化により台頭する中国産地に対する危機感は強くなってきている。残念ながら、もうテクノロジー勝負だけでは勝ち目はないのかもしれない。
 鯖江には、眼鏡は工業製品ではない、工芸品を作るという“鯖江プライド”があると言われている。海外では図面重視であるが、日本人は掛け心地重視で、最後のフィツティングの“調子とり”により微妙な曲線をつける。今後も鯖江ブランドの価値を高めるには、“鯖江プライド”こそ不可欠であると思う。

【参考】
「MADE IN JAPAN, 風土 IN JAPAN」啓発ポスター 福井県眼鏡協会
メッセージ:百二十年目の原点回帰
土地の風景や自然の暮らしが浮かびあがってこなければ、どこの国でつくられても同じでなはいか。風土からものを形づくり、営みを通して風土を育む。その循環を取り戻していくことが、私たちの目指したいMADE IN JAPANであり、郷土の過去と未来への愛です。

福井県眼鏡協会 HPより
https://www.japanglasses.jp/contents/declaration.html

大橋 祐之(2025年11月)