福井地区での中国投資案件は、現在知り得るところでは「金子眼鏡」直営店の中国展開のみである。眼鏡製造・販売のJapan Eyewear Holdings(JEH)は中国を中心としたアジア地域での直営店展開を本格化させることを最近発表した。JEHは眼鏡小売店「金子眼鏡」と「フォーナインズ(999.9)」を約110店舗有し、眼鏡の企画デザインから製造・販売まで一気通貫で手掛ける。分業制が多い斯界では稀有な企業である。また、2023年に眼鏡製造業では唯一東証スタンダードに上場を果たした。
同社製品は、鯖江の熟練した職人技(最近は「クラフトマンシップ」という言い方)による高品質の眼鏡として高い評価を受けている。出店場所はインバウンド顧客をターゲットとした一等地を厳選しており、福井・石川・富山の北陸三県には直営店はなく、残念ながら我々は大都市に行かないと「金子眼鏡」の眼鏡を買うことはできない。
「金子眼鏡」ブランドは、中国や韓国で「Made in Japan」、「Made in Sabae」のハイエンド眼鏡として人気が高い。日本国内の一般的な眼鏡(レンズ込み)の単価が約3万円と言われている中で、同ブランドの平均単価は眼鏡一式80,363円であり、初めて前半期8万円台になった。これはかなり高額である。上海店で、さらにハイエンド志向であり、すべて日本の自社工場から輸入し、平均単価は眼鏡一式で約9,000元(約18万円)と日本の倍以上とは驚きである。なお、眼鏡と言う商品は、フレームとレンズの組み合わせ、さらにフィッテイングにより、医療器具にファッションアイテムとしての付加価値が発揮される特殊な商品と言われている。
中国の目の肥えた富裕者層に応えるため、ブランド哲学とストーリー性、商品、人材、店舗環境を工夫している。2016年のパリ出店以来海外進出を本格化し、2030年までに出店計画50超のうち30店舗以上を中国の上海などの一等地への出店を狙う中国市場重視である。既に、2023年に金子眼鏡(上海)有限公司を設立しており、現在上海に3店舗、北京では1店舗を展開している。上海武康庭376店、上海思南公館店、上海洛克·外滩源店、北京三里屯太古理店、いずれも富裕層が集う一等地に立地している。
また、2024年にはJapan Eyewear Holdings Hong Kong Co.,Ltd.を設立し、香港で2店舗展開中。現在、台湾での出店を目指して、子会社設立手続き中であり、2026年度中に1号店のオープンを目指している。最新の2025年中間決算では、「2025年7月に日本で大災害が起きる」とのうわさがSNS上で広がった影響で、香港や台湾からのインバウンド客が減少したため一時期苦戦したが、売上高89億円、純利益17億円と過去最高となった。
引き続き、眼鏡業界で今最も元気なJEHの今後の中国展開から目が離せない。


大橋 祐之(2025年9月)
