(東海地域レポート)【第2回地域レポート】

 中国自動車市場は、昨年過去最高の3100万台に達し、輸出台数も2年連続で世界首位を維持。EVだけでなく、SDVやネットにつながるスマートカー、コネクテッドや自動運転を備える知能化へと移行しつつある一方、競争が激化して日本企業も正念場を迎えている中、東海地方における中国のサプライヤーの進出の動きと、日本のサプライヤーが中国事業を強化する動きのニュースを紹介いたします。

■中・韓サプライヤー、中部への売り込み積極化
 2025年07月18日(金)中部経済新聞オンラインより転載

 常滑市で18日まで開かれている自動車技術展「人とくるまのテクノロジー展2025NAGOYA」(以下 人テク展名古屋)では、中国や韓国などの海外サプライヤーが中部地方への売り込みに力を注いでいる。中国市場の減速、米国の関税リスクなどが懸念される中、電動化という100年に1度の大変革期を商機にとらえ、中部企業との取引拡大や参入機会をうかがっている。

 ■まずはHV

 「日本車のEV(電気自動車)化はこれから。まずはハイブリッド車(HV)製品を攻略したい」と話すのは電動オイルポンプや電動油圧アクチュエーターなどを製造する韓国のヨンシン精工(慶州市)の担当者。高効率な小型ベーンタイプの電動オイルポンプを供給できる韓国唯一のメーカーという。日産自動車、いすゞ向けで取引実績があり、中部では「アイシンさんなどをターゲットに売り込みたい」と狙いは明確だ。

 エムピーエスコリア(龍仁市)は亜鉛電池を用いた車両始動用バッテリーを紹介。中国の輸出規制で問題化しているレアアース(希土類)を使用しないため安定供給が可能なほか、価格がリチウム電池と比べ5分の1ほどというメリットをアピールし、日本の自動車メーカーに採用を促している。ミョンジン(水原市)はEVの車両火災の防止のため、安全に溶断できる遮断容量が高いヒューズを提案。日本メーカーとの取引が実現すれば日本での拠点開設も検討していく。

 人テク展名古屋には公的機関の韓国貿易センター(KOTRA)が取りまとめ役となり、会場中央に「韓国次世代モビリティ技術館」ブースを設置。韓国企業49社が出展し、うち電気・電装品関連が最多16社、自動運転関連9社、バッテリー関連6社を含めると電動化関連で6割を超える。KOTRAの担当者は日本への売り込み熱の高さを指摘し、「グローバル調達の一つの選択肢として考えていただければ」と強調する。

 ■日本国内で体制強化

 中国・深圳市に本社を置く紅品科技グループは、自社の試作技術を結集したコンセプトカーを初出品。ライト、バンパー、シート、タイヤの金属部分などあらゆる試作に対応できるとし、今回はエンジンブロックやモーターハウジングなどの試作サンプルも展示した。日本ではメーカーの車両開発遅れが指摘されているが、同社担当者は「開発が後ずれするほどに見直しや検証機会が多くなる。試作の仕事はむしろ増えている」とし、さらなる受注拡大に向けて日本拠点の営業人員も増員する計画だと明かす。

 ニンボーアジアウェイオートモーティブコンポーネンツ(寧波市)は車の電動化でニーズが高まる、車体フレームなどの大型部品を一体成形する鋳造技術「ギガキャスト」による部品製造を提案している。日本の展示会に初出展したスウチョウケバーテクノロジー(蘇州市)は、自動車のライト部品に採用実績のあるレーザー溶着設備や赤外線溶着設備などをPR。すでに中国国内で日系企業との取引はあるが、昨年には日本国内での取引開拓に向け、名古屋市内に日本初の営業拠点を開設している。

■富士ファイン、中国大連工場を拡張
 2025年07月16日(水)中部経済新聞オンラインより転載

 超極細電線を主力とする富士ファイン(本社岡崎市日名西町、伊藤公正社長)は、中国・大連市の子会社、大連富士発英の工場を拡張した。新工場では電子部品や細い電線を撚(よ)り合わせるリッツ線を増産し、同子会社全体の生産能力を段階的に約2倍へ引き上げる。電気自動車(EV)やプラグインハイブリッド車(PHV)向けなど中国国内の電動車需要の拡大に対応する。

 富士ファインは、超極細電線を中心に、電子部品やリッツ線、それぞれの売り上げバランスを3分の1ずつとするデルタ経営を目指している。大連工場への投資もこの一環。

 大連富士発英は1990年に富士ファインが全額出資して設立。このほど、既存の第1工場に隣接する他社の工場を取得し、これまでレンタル工場で生産していた電子部品とリッツ線の生産を移管した。第1工場は敷地面積3万2千平方メートル、工場は平屋建て1万6千平方メートルで、超極細電線を生産している。新工場は敷地約2万2千平方メートル、建屋は2階建て延べ2万4千平方メートル。レンタル工場から生産設備を移管するとともに、最新の自動化設備を導入して、生産能力を増強した。

 新工場で電子部品事業は極細電線製造からコイルの巻き線、コイルの樹脂モールドまでを一貫生産する。リッツ線は電気自動車(EV)やプラグインハイブリッド車(PHV)向けに中国内の需要の拡大に対応していく。自動車業界向けの取引先は日系メーカーのほか、中国BYDなど中國内の電気自動車メーカー、欧州メーカーやそのサプライヤーと幅広い。

 また、自動車以外にも家電や住宅設備関連のガス業界向けやイグナイター(点火トランス)など、取引社数は480社と多く、さまざまな業界と取引がある。最近はタッチペン関連や電動アシスト自転車など新規受注も獲得しており、将来は人工知能(AI)関連の受注拡大も予想される。

 同子会社は、昨年6月に高進技術企業の認定を受け、法人税率が25%から15%に減額される特権も受けている。従業員数は約600人。進出当初から毎年、研修生を迎え入れており、作業者のレベルは「日本と同等」(伊藤社長)。6月には大連富士発英設立35周年と、新工場の稼働を記念し、従業員や大連出向者の家族を招いて記念式典を開催した。

■明和製作所、中国工場の生産能力増強
 2025年07月04日(金)中部経済新聞オンラインより転載

 金型の設計・製作などを手掛ける明和製作所(本社三重県菰野町、大矢知公則社長)は、中国事業を強化する。このほど、中国工場で大型金型の生産能力増強投資を実行した。さらに、金型補修の受注強化に向けて、同業の愛知溶業(本社一宮市、市川修社長)と覚書(MOU)を結んだ。自動車部品分野を中心に金型製造や補修で技術力を高め、現地の部品メーカーなどとの取引拡大を狙う。

 電気自動車(EV)市場が急成長している中国では、車体フレームなどの大型部品を一体成型する「メガキャスト」や「ギガキャスト」に対応した金型のニーズが高まっている。

 明和製作所はこうした大型金型の受注拡大を念頭に、中国現地法人の明和精密模具(常熟)有限公司(江蘇省)が運営する工場を昨冬増設し、延べ床面積を約4割拡張。設備面では50トンと30トンの親子クレーン、5軸加工機、3次元測定器、放電加工機を新たに導入した。従来の2500トンクラスから、生産設備の増強後は6千トンクラスまでの金型の製作・供給が可能になった。

 一方、金型補修では5月に愛知溶業とMOUを締結した。愛知溶業は金型の溶接補修を得意とし、精密なレーザー溶接に強みを持つ。中国工場で愛知溶業の高い技術力を取り入れ、長寿命かつ信頼性の高い金型補修の実現を目指す。また、補修事業で得られた知見やノウハウを金型設計にも応用し、耐久性とメンテナンス性に優れた金型の開発につなげたい考えだ。

 大矢知社長は「中国の部品メーカーでは金型を補修して使用する文化があまり育っていない。新たに金型を製造するよりも、コスト面や環境面でメリットがあることを訴えながら、受注を増やしていきたい」と力を込める。

 明和製作所の製造拠点は日本と中国のほか、メキシコと東南アジアにもある。中国現地法人は2011年設立。売上高(24年12月期)は約10億5千万円。従業員数は約70人。

以上

内山 仁宏(2025年7月)