(関西地域レポート)【中国のグリーン発展・低炭素化と関西――広東省からのアプローチ】

 7月11日、大阪・関西万博では、何立峰・中国国務院副総理一行の来日により中国ナショナルデー公式セレモニーが行われました。何副総理からは、「自然と共に生きるコミュニティの構築‐グリーン発展の未来社会‐」をテーマとする中国パビリオンを通して、中国の生態文明建設の実践に立脚する発展理念を紹介し、中国と世界各国が自然と共に生きるコミュニティを構築する美しいビジョンを展望する方針が説明され、これに対して、日本側代表の武藤容治・経済産業大臣からは、この展示などを通じ、日本や世界からの中国への理解が進むことへの期待、また森山裕・自民党幹事長からは、環境を含む日中両国の共通課題の解決のために両国が協力し合うことがアジア、ひいては世界の明るい未来につながるとの確信が述べられました(詳細は、弊機構ホームページ[1] をご参照下さい)。
 この日中双方からのメッセージをも念頭に、今回は「中国のグリーン発展・低炭素化分野」をテーマとして、広東と関西とのビジネス交流をレポートします。

「中国広東省・関西環境ビジネスマッチングセミナー」から

 6月27~29日の万博・中国パビリオンでは広東ウイークが開催され、これに際して広東省から来阪した官民ミッション(広東省生態環境庁・徐暁霞庁長はじめ関係者6名、広東省クリーン生産協会・黄建平会長はじめ会員企業40名)の参加を得て、6月27日に大阪市内のAOTS関西研修センターで「中国広東省・関西環境ビジネスマッチングセミナー」が行われました。近畿経済産業局、Team E-Kansai(事務局:公益財団法人地球環境センター〔GEC〕)、広東省クリーン生産協会、広東省環境保護産業協会が主催したものです。
 Team E-Kansai[2] とは、アジア地域における環境負荷低減や地球環境問題への対応、また関西地域とアジア地域との環境・省エネ産業のビジネス交流等を目的に、近畿経済産業局のサポートのもとで、2008年11月に設立された「関西・アジア 環境・省エネビジネス交流推進フォーラム」の略称です。中国、タイ、ベトナム、インドネシア等、アジア展開を目指すメンバー企業に対して、現地見本市・商談会の実施やビジネスセミナーの開催など様々なメニューで支援してきています。
 24年11月に、5年ぶりの対面交流として東京で開催された「第17回日中省エネルギー・環境総合フォーラム」でも、Team E-Kansaiと広東省科技合作研究促進中心との「環境保護分野におけるビジネス交流促進のための枠組協力」が27調印案件の一つとして発表されました[3] 。今回のマッチングセミナーは、この枠組協力の中で、関西企業の有する環境・省エネ技術を中国市場で扱いたいという、広東省の企業から寄せられたニーズに基づき開催する運びとなったといった経緯も、セミナー冒頭に近畿経済産業局国際部・村上圭子国際化調整企画官から紹介されました。
 具体的には、どのようなニーズがあるのか、また、ニーズ実現のための政策支援を含む事業環境は現在どのような状況なのか。こうした私の初歩的な関心に対し、広東側からは要旨として、表1のようなプレゼンテーションを聴くことができました。

表1「中国広東省・関西環境ビジネスマッチングセミナー」の広東側プレゼンテーション(要旨)

広東側講師テーマ要点
広東省固体廃棄物及び化学品管理技術センター・葉脈副主任デジタル化・スマート化による「ゼロ廃棄物都市」構築~広東省のグリーン・低炭素な品質の高い発展を支援〇「ゼロ廃棄物都市(無廃都市)」は、発生源から固体廃棄物量を減らし、資源としての活用推進、埋立処分量の最大限の削減で、固体廃棄物の影響を最低限に抑える都市発展モデル
・2019年深圳市は第一陣の無廃都市パイロット都市指定
・2021年珠江デルタ9都市や梅州市、信宜市等計11都市で「無廃都市」パイロット事業展開開始
・2025年5月、広東省政府「省全域の『無廃都市』建設事業実施計画」公布
〇「広東省固体廃棄物環境監督管理情報プラットフォーム」設立:政府と企業が共同で共有データベース構築、政府と企業の双方向接続(やり取りされた各種データ2億件以上)等
・実践事例①:深圳のリサイクル可能な廃棄物のデジタル循環システム構築(スマートリサイクル)
・実践事例②:都市の固形廃棄物処理の全産業チェーン「瀚藍モデル(仏山市南海区の瀚藍固体廃棄物処理環境保護産業パーク→日本の技術も活用)」。ごみ焼却発電施設3基、汚泥乾燥化処理場等により、「埋立処分ゼロ、域外搬出ゼロ。100%無害化、100%減量化、100%資源化」達成
・実践事例③:中海油恵州石油化学有限公司による「無廃の石油化学」(中国石油化学業界最大級の省エネ・脱炭素プロジェクト「芳香族炭化水素低温熱連合利用プロジェクト」)等々
広東省クリーン生産協会・黄建平会長クリーン生産:広東省のグリーン・低炭素発展を推進〇2003年、中国は世界で初めてクリーン生産の法的枠組み「クリーン生産促進法」を制定
〇支援政策:広東省はクリーン生産の継続的推進支援策を実施、最近では2023年の省政府10部門による「クリーン生産の全面的推進実施方案(2023-2025年)」等
〇資金支援:2008年以来、省政府は省エネ特別基金設立でクリーン生産や省エネ改造など重点プロジェクトの資金支援実施
〇プラットフォーム構築:クリーン生産情報システムを構築、「粤商通」モバイルアプリと接続、クリーン生産認証管理システムの統一認証システム接続により、1回の認証で全システムで承認され、企業はクリーン生産関連情報を便利かつ迅速に入手可能
〇成果事例:
・宝鋼湛江鋼鉄の100万トン級(国内最大)水素垂直炉で鉄鋼業の脱炭素化をリード、下水処理場、標準化された共通工場等も
・クリーン生産監査方式のイノベーションで、クリーン生産監査効率向上、企業負担軽減
仏山早稲田科技服務有限公司・林慈生董事長兼総経理(Team E-Kansai コーディネーター)中国広東省環境関連企業・団体のニーズ紹介〇分野別の企業数と協業ニーズ
・水処理技術4社:技術共同開発
・廃棄物処理・資源化9社:技術導入・共同事業化
・省エネルギー・脱炭素5社:システム構築・製品開発
・新エネルギー3社:投資・技術提携
・環境モニタリング2社:システム開発
・環境材料・製品3社:販路開拓・性能向上
・環境コンサルティング2社:法制度支援
・日中マッチングプラットフォーム3社:交流基盤構築
・貿易・サプライチェーン2社:物流支援・市場展開
〇支援フレームワーク:3ステップ協業モデル ①適合性診断 ②実証フェーズ ③事業化

(出所)「中国広東省・関西環境ビジネスマッチングセミナー」での当日配布資料とプレゼンテーション内容に基づき筆者が抽出・整理。

 
 今回のセミナーでは、少なくとも、広東省の環境・省エネ分野の事業環境に関する二つの特色と、企業ニーズに関する重要な支援フレームワークが明らかにされたと言えそうです。
【広東省の環境・省エネ分野の事業環境に関する二つの特色】
 第一の特色は、深圳等でのパイロットプロジェクトから始まった「無廃都市」という固体廃棄物対策が、5年間を経て、概念的取組みからデジタル化・スマート化と一体化した固体廃棄物モニタリング情報プラットフォームを構築し、リアルタイムの省全域の政府と企業の双方向のガバナンス実現に至りつつあるということです。
 第二の特色は、開発途上国の中小企業等の製造現場において親和性が高いとされてきた、生産効率の改善により環境負荷を減少させるWin-Winアプローチである「クリーナープロダクション(中国語は「清潔生産」、今次セミナーでは「クリーン生産」という訳語が使用されている)」が、「清潔生産促進法」のもとで、省レベルの支援政策、省エネ特別基金、中国初の省レベルの専門組織「広東省クリーン生産協会」、さらには「粤商通」モバイルアプリと接続したクリーン生産情報システムのプラットフォーム構築を伴って継続的に実現されてきたという、広東省ならではの包括的グリーン発展・低炭素化の先行実践経験です。
【企業ニーズに関する重要な支援フレームワーク】
 また、重要な支援フレームワークとは、上記の特色をも背景としつつ、企業ニーズ紹介の一環で説明された「3ステップ協業モデル」です。この内容は、中国日本商会の『中国経済と日本企業2025年白書』[4] で、広東省に関する建議の一つとして2年間継続して提起されている「グリーン分野支援策(新規設備導入などにおける補助金制度による企業のグリーン分野の積極的な取り組みへの支援、関連政策の実際の利用事例の公開)要望」に鑑みれば、具体的ソリューションに繋がり得るものにも思われました。

 小結

 本セミナー後半では、関西企業を含む日本の省エネ・環境技術を集めた「日中省エネルギー・環境技術データバンク」[5]が日中経済協会関西本部・今村健二事務局長から紹介され、双方の関心を集めました。
 万博・中国ナショナルデーに際して行われた武藤大臣と何副総理との面会では、本年中に北京で開催予定の「日中省エネルギー・環境総合フォーラム」についても言及がなされたようです[6]。こうした機会が継続的に活用され、関西はじめ日本企業の皆様が広東省を含む事業現場を直接訪れて、中国の同業者等と実態に根差した意見交換を行い、グリーン発展・低炭素化等の具体的ニーズに基づくビジネス醸成へと結実していくことを期待したいと思います。

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[1]【ご報告】2025年日本国際博覧会中国館「中国ナショナルデー公式セレモニー」イベントに参加(2025/7/11)、日中投資促進機構。https://www.jcipo.org/theme25/
[2] Team E-Kansai(カンサイとアジアの環境ビジネスポータルサイト) https://team-e-kansai.jp/
[3] 第17回日中省エネルギー・環境総合フォーラム「新規調印案件一覧」、『日中経協ジャーナル』2025年1月号10p、日中経済協会、令和6年12月25日発行
[4] 中国経済-日本企業白書 (最新は2025年6月17日)、 中国日本商会。https://www.cjcci.org/list/576.html
[5] 日中省エネルギー・環境技術データバンク https://jcpage.jp/tec/
[6] 武藤経済産業大臣が大阪・関西万博の中国・ナショナルデーに合わせて大阪府に出張しました(2025年7月11日)、経済産業省。https://www.meti.go.jp/press/2025/07/20250711003/20250711003.html

十川 美香(2025年7月)