中小企業の国際化と中国進出における問題点

信金中央金庫 アジア業務相談室長 篠崎幸弘

1.企業の国際化と人材育成

 企業の国際化には、図表1のとおり(1)国内、(2)貿易、(3)委託加工、(4)合弁企業、(5)独資企業といった発展段階を経ていくものとされ、各発展段階において次の段階に向けて人材育成等が行われることが必要である。しかしながら、最近の中小企業の中国進出を見ていると国内取引しかない企業がいきなり独資で中国に進出するというケースが増えており、こうした企業では進出のための十分な社内体制ができないまま進出することとなっている。

図表1:企業の国際化の発展段階
発展段階 現状への対応のポイント 将来への対応のポイント 人材育成のための具体的な施策
(1)国内 国内における諸問題 社内の国際化への雰囲気作り @海外視察(市場調査、技術水準等)、A外国人研修生の受入れによる社内の国際化適用力の醸成
(2)貿易 社内の国際化への雰囲気作り 技術移転 @提携先からの研修生受入れによる技術移転、A現地企業へ短期派遣する技術指導者の養成
(3)委託加工 技術移転 現地工場の生産管理、経営 @現地企業からの社内留学による技術移転、A現地企業へ短期派遣する技術指導者の養成、B現地企業へ長期派遣する生産管者理および経営者の養成(生産管理と自社権利の確保を中心とした管理)C現地人管理者の養成
(4)合弁企業 現地工場の生産管理、経営 現地工場の独自経営 @現地企業からの社内留学による技術移転、A現地企業への技術指導者の短期派遣、B現地企業へ長期派遣する経営者等の養成(経営に関する全ての事項)、C現地人管理者の育成
(5)独資企業 現地工場の独自経営 事業拡張 @販売網の構築できる人材の育成、A現地人経営者の育成


2.信用金庫取引先現地企業が抱える問題点および撤退理由

 図表2は私どもが隔年で調査している信用金庫取引先の海外進出状況調査における進出企業の抱える問題点を回答数の多い順に並べた表である。多い順にいうと、現地社員の教育、為替変動、文化・慣習の相違、現地工場の生産性、人件費の上昇、派遣社員の選定、資金調達、制度・政策の変更、販売不振で、ここまでがそれぞれ回答数の合計が100を超えており、総回答が約1000社なので、約10%の抱える問題である。

図表2:信用金庫取引先現地企業の抱える問題点

(注)比率=回答数/回答企業数(当項目につき回答のあった企業数)
回答率=回答企業数/進出企業数
(出所)平成13年度信用金庫取引先海外進出情況調査

 進出企業が文化習慣の相違、派遣社員の選定、資金調達などの問題を抱えるのは、当初の計画や調査が非常に甘かったといわざるをえない。中小企業を支援する機関はみなこういう結論に至っているようで、「F/Sをしっかりやりましょう」というのが我々支援機関の間で合言葉になっている。
中小企業の海外進出は、F/Sが不十分であり、進出国に対する理解も非常に乏しいということをご認識いただきたい。最近では、前述のとおり(1)国内取引しかない企業がいきなり(5)独資企業として進出するわけなので、元々社内の国際化ができていないといったことも珍しくない。

3.中国進出のキーワード

 最近の中国進出のキーワードは何かというと、環境問題、PL対策そして知的財産権である。中国でものを作る場合、中国の環境基準をクリアすることが必要であり、そういう意味では進出プロジェクトにメッキや染料などの工程が含まれる場合、非常に大きなクリアすべき問題を抱えていることとなる。我々は今すぐ進出しない企業には、ISO9000および14000シリーズを取得することを勧めている。また、中小企業の場合、知的財産権のうち特許権は考えにくいが、ケースにより商標権は確保すべきではないかと思っている。
これらのキーワードが中小企業にとってどうかというと、我々がキーワードや注意事項などのいろいろな情報を提供すると、その場では理解してもらえる。しかしながら理解はするが、実際に実行するのは難しいというのが現実である。例えば、白紙委任状はだめだというと理解はしてくれるが、実際にその場に至ると正に白紙委任状を簡単にサインし中国側に与えているのが中小企業である。中小企業では社長がいろいろなことをやりながら、片手間に中国進出に取り組んでいるのが現実なので、非常に不安定な状態で進出手続きを進めているのである。

(以下は「投資機構ニュースNo.99」に掲載)