広東省加工貿易事情

 7月上旬、事務局では深センの日系企業を訪問し、この地域の加工貿易に対する保税管理の実情をヒアリングした。
 従来、加工貿易に対しては、政府が輸出奨励の観点から原材料の保税輸入を認めているが、保税貨物の国内転売を防ぐ目的で96年から銀行保証金台帳制度が導入され、さらに99年からはそれが強化されている。これは、加工貿易に従事する企業をAからDまで4つに格付けするとともに、特定の原材料を制限品目に指定し、その組み合わせで原材料輸入時に保証金を徴収または免除するという方式である 。
 実施当初は、各地税関が企業格付けで厳しい基準を適用したり、保証金の納付方法を現金のみに限定したことから、多くの企業が資金繰りや操業に影響を被った。特に広東省では、加工貿易企業が集積しており、またそれら企業間で「転廠」という複雑な取引が広く行われているため、影響は広範囲に及んだ。
 その後、2000年から企業の格付け基準が緩和され、また保証金納付で銀行保証方式が認められるなどの改善措置が採られ、問題は沈静化した。現在、広東省では加工貿易に対してどういう管理が行われているのか、またその中で進出企業はどういう対応をとっているかを明らかにするために訪問したものである。

広東省の独特の運用
 現行の加工貿易銀行保証金台帳制度は、加工貿易企業に対して、対外経済貿易部門の加工貿易業務認可、税関での登記、中国銀行での保証金台帳開設を義務づけている。(資料1参照)
 しかし、広東省ではこれらの手続きが簡略化されている。対外経済貿易部門の業務認可は、中央の規則では個々の契約ごとに取得すべきとされているが、この地域(少なくとも珠江デルタ)では加工貿易を初めて行う際(現地法人の操業時あるいは委託加工の開始時)に一括して認可証が発行される。また、中国銀行での保証金台帳もあまり行われていないようである。
 今回訪問した企業は現地法人で進料加工を行っているが、いずれも税関での手続きしか行っていなかった。税関では、まず対外経済貿易部門の認可証により加工貿易登記手帳の交付を受ける。登記手帳は原則として契約ごとに交付されるが、この地域では半年間有効で、この間のすべての取引に使用する。企業は見込みで原材料を輸入し、毎月1回、輸出状況を税関に報告し、保税で輸入した原材料が適正に輸出されているかがチェックされる。(「集中報関」という。)原材料を使い残した場合には、翌月への繰り越しが認められる。そして、半年後に最終的な照合・確認を受け、適正と認められれば、手帳に記載された原材料とそれに該当する 製品が抹消(消し込み)されて保税が有効となる。
 また、この地域では「転廠」という複雑な取引が当たり前に行われている。「転廠」とは、通常、保税で輸入した原材料を加工後に中国内で保税のまま他の輸出企業に納入する取引をいう。(厳密には、決済を伴わない取引を指し、決済を伴う「結転」と区別しているが、ここでは両方を「転廠」と呼ぶ。)例えば、コイルセンターが鋼材を輸入加工し、プレス・金型メーカーへ納入、それがさらに電子部品メーカーへ納入され、最終的に電気製品メーカーから輸出されるといった取引である。(資料2参照)
 この場合、それぞれの企業が登記手帳によって保税の手続きを行う。この「転廠」手続も、この地域では独特の方法が採られている。企業ごとに取引先の数や取引量に応じて、輸入専用手帳、輸出専用手帳、納入地・仕入地別の分冊を発行している。
 これらは、いずれも各企業とも取引先、取引回数(通関回数)が多く、取引内容が複雑なために簡便な方法が採られているといえよう。

日系企業の対応
 しかし、企業からすると、それでも手続きは大変である。「転廠」の場合、取引先と互いに協力して手続きをしなければならない。納入側からすると、客先から「手続きは後にして先に物がほしい」という要請や、急な仕様変更の依頼が頻繁にある。そのたびに、税関対応を考えなければならない。手続きを怠れば、税金の追徴や罰金、企業格付けの引下げなどが待っている。また、仕入側の企業にとっては、部材点数が多くなるため、税関への申告がより複雑になる。もしも申告にミスがあれば、税関から同様の憂き目に遭う。
 こういう情況にあって、大方の日系進出企業の企業格付けはBである。B企業は、新規進出企業か、そうでなければ軽微な規則違反がある企業である。進出してかなりの期間を経過している大手アセンブリー・メーカーも、AよりBが多いという。
 今回訪問した企業の中には、複雑な「転廠」をこなしながらAを取っている中小企業があった。この企業は電子部品メーカーで、部材点数は数十点に上るが、ほとんどの部材を広東省内で仕入れ、製品をアッセンブリーメーカーに納めている。仕入先・納入先との取引(すなわち輸出入通関)は、毎日1回はある。進出して6年になるが、通関でトラブルを起こしたことは一度もないという。この地域の"常識"からすれば、稀有な企業である。
どういうやり方を採っているのか、率直に聞いてみた。以下は総経理の話である。

手続きは煩雑だが、保税のメリットを受ける以上は規則に従ってやるしかない。そこで、如何にミスを出さない管理体制をつくるかを考えた。まず日本人管理者が税関の規則をよく勉強し、中国人通関員に業務を任せきりにしないようにした。通関員に任せると、輸入部材を細かく申告しないため、輸出製品と合わなくなる。税関は、商品番号、数量または重量、単価を逐一チェックする。通関員には、購買・生産管理・営業各部門との会議に同席させ、何をどれだけ何のために輸入するのかを理解させるようにした。それでもミスが起きたら、連帯責任ということで、総経理以下関係者全員が罰金を払うようにしている。
通関申告で困ったことがあったら、すぐに税関に相談に行く。例えば、客先の仕様変更要請で仕入れた部材を廃棄しなければならないときなど、口頭で言っても埒があかないので、必ず報告書で伺いを立てるようにしている。会社の事情を説明し、「どうすればいいかご指示いただきたい」という内容にまとめ、総経理が署名して提出するが、こうすれば的確な回答が帰ってくる。
ある時、日本から輸入した材料がフォワーダーのミスでインボイスに記載された数量と実際の数量が合わないことがあった。税関から呼び出しがあり、日本へ送り返せば罰金は取らないという。客先の事情でこの材料はすぐにも必要だったが、"袖の下"は絶対に嫌だったので、客先には補償金を払う覚悟で、「規則は規則なので、日本へ送り返す」と言った。そしたら、その税関職員が気の毒に思ったか、「次の輸入のときに調整すればいい」と言ってくれた。これに感激して、その税関に感謝状と記念の楯を贈呈した。それが地元新聞で「企業の生産活動を支える税関」と大きく報じられて、税関からかえって喜ばれた。それ以来、税関とはいい関係にある。
税関職員の中には、あからさまに"袖の下"を要求する人間もいるが、これはほんの一握りで、大部分は真面目。規則には非常にうるさいが、こちらがそれを守っている限り問題はない。

 複雑な手続きでも規則を守り、わからないときは税関に相談し、理解を得る。そういう社内の管理体制をつくることが重要という。まさに現場の厳しさを見る思いがした。

(池上隆介)


【資料1】加工貿易の認可・登記制度

【資料2】転廠制度について